つれない男女のウラの顔
「…会社の通用口で落とした可能性もあるんですけど、ひたすら猛ダッシュで帰ってきたので、その拍子に…っていうのも考えられるし…」
「とりあえず会社に戻るか?車なら出すけど」
「えっ、いやそれはさすがに申し訳ないです。それにこんな格好じゃ車に乗れないし………わっ!」
再び雷が鳴って、咄嗟に耳を塞いだ。
怯える私とは反対に、成瀬さんは冷静に「近いな」と呟く。
雷が怖い。このままずっと外にいるなんて無理。とにかく早く鍵を探さなきゃ。
──あ、そうだ。
そこでハッと閃いた私は、急いでバッグからスマホを取り出した。
「とりあえず管理会社に連絡してみます」
雨に濡れたせいで体温が奪われ、手がかじかむ。それでも何とかスマホの画面をタップして、アパートの管理会社に電話をかけた。
「…繋がらない……」
けれどいくら待っても『大変混みあっています』『暫くお待ちください』のアナウンスばかり。繋がる気配はない。
仕方なく一度通話を終了させると、その直後にまた雷が鳴った。近くに落ちたのか、かなりの爆音だった。
無意識に「ぎゃっ!」と可愛げのない声が出て、身を守るようにその場に蹲る。
「…雷、怖いのか?」
落ち着いた声が上から落ちてきてハッとした。
しまった。この一瞬で、そばに成瀬さんがいることを忘れていた。
恥ずかしさのあまり俯いたまま「はい」と素直に答えると、「大丈夫か?」と優しい言葉をかけられて、じわっと目頭が熱くなった。
「実は嫌な思い出がありまして…幼い頃の話なんですけどね、数メートル離れた場所に雷が落ちて。ケガはなかったんですけど、そこからもうダメで…」
あの日から雷が苦手になった。幼い頃の話だから、その時の記憶は曖昧だけど、今でも雷の音を聞くと恐怖感に襲われる。
そして今も身体が震えている。それは雷に対する恐怖のせいなのか、寒さのせいなのかは分からないけれど。
「なぁ花梨」
「はい…」
「とりあえず俺の部屋に入るか?」