つれない男女のウラの顔
「え…?」
空耳かと思った。思わず聞き返すと、成瀬さんも自分で自分の発言に驚いたのか「えっ、や、これはその、決して変な意味ではなくて…」と珍しく口をどもらせ、顔を真っ赤に染めた。
それを見た私も急激に体温が上がる。きっと私の顔も彼と同じくらい赤くなってる。
あれ、こういうの前にもあったな。
「あの、私は友達の家に……ひぃっ!」
またまた雷が鳴り、大きく肩を揺らした。格好良く「友達の家に行きます」と言いたかったけど、格好付けるどころかダサい悲鳴を上げて終わってしまった。
「玄関まででもいいからとにかく入らないか。友人の家に行くにしても、その格好のまま出られないだろ。髪も乾かさないと風邪を引くぞ」
成瀬さんの言う通り、今の私はその辺を歩けるような格好をしていない。髪も服も靴も、なんならマスクもびっしょり濡れている。
「…お言葉に甘えて、お邪魔します」
渋々呟くと、成瀬さんはさっそく鍵を開け、私を中に入れてくれた。玄関の構造は私の部屋と同じだけど、成瀬さんの部屋というだけで違う世界に来た気がして、一気に心拍数が上がった。
さすがに部屋の奥まで入る勇気はなくて「ここで大丈夫です」と伝えると、すぐに中からタオルを持ってきてくれた。
お守りでもあるマスクを躊躇いながらも外し、タオルを頭に被せると成瀬さんと同じ匂いがして、また顔が熱くなった。
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「大丈夫だ。まだそこまで迷惑とは思ってない」
彼なりの優しさなのだろうか。無愛想で塩対応で、感情が死んでいるはずの成瀬さんは、まだほんのり頬を赤く染めたまま「寒くないか?」と尋ねてくる。その優しさに、胸がじんと熱くなった。
ただ、私はこの数日で、彼のいいところばかりを発見しているのに、私は間抜けなところしか見せていない。それが無性に恥ずかしい。
「なんか欠点ばかりで情けないですね」
「え?」
「成瀬さんに、格好悪いところばかり見せてる。躓いて転けそうになったり、くだらないギャグを連発したり、鍵は紛失させるし、すぐに赤面するコミュ障だし、おまけに雷も怖いなんて…」