つれない男女のウラの顔

「成瀬さんの言葉って、なんだか不思議ですね」

「不思議…?」

「いつも私の心にスッと入ってくるんです。成瀬さんの言葉には、嘘がない気がして」


彼の言葉は、いつも私に自信を与えてくれる。なぜか信じられる。

その理由は、同じ秘密を抱えているという単純なものなのかもしれないけれど。最近の私は、間違いなく彼の存在に支えられていた。


「ありがとうございます」


自然と頬が緩んだ。マイコ以外の前でこんなふうに笑ったのはいつぶりだろう。

けれどその時間は長くは続かず、キョトンとしている成瀬さんと目が合うと、慌てて視線を伏せた。


「こ、こんなことしている場合じゃないですね。鍵をどうにかしなきゃ。とりあえず警察に届け出をして、それから会社に戻ろうかな…」


半ば独り言のようにつらつらと紡いでいる間も、成瀬さんは真顔でじっと私を見ていた。

どうしてずっと黙っているんだろう。元々静かな人だけど、何か喋ってくれないとちょっと気まずい。


「えっと、近くの交番は──…」


この空気に耐えきれず、慌ててスマホを取り出し、交番の場所を調べようとした時だった。待ち受け画面が、突然着信画面に切り替わった。


「あれ、電話だ」


もしかしてアパートの管理会社から折り返しの電話?いや、そんなはずはない。あそこには結局繋がらなかったから。

しかも着信画面をよく見ると、メッセージアプリからの着信になっている。


「出なくていいのか?」

「それが、相手が誰なのか分からなくて…」


画面に表示されている、見覚えのない“Jun.I”の名前に首を傾げる。


「ジュンって誰だろう」


コミュ障の私に電話が掛かってくることは滅多にない。掛かってきたとしても、両親かマイコ、もしくは宅配便くらいだ。


「…あ、もしかして」


そこで思い出したのは、ほんの数十分前の出来事。


「石田さんかもしれない」

「石田?」

「はい、資材部の石田さんです。ついさっき連絡先を交換して…」

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