つれない男女のウラの顔
それにしても成瀬さんって本当に冷静な人だ。雷にも動じないし、鍵をなくしたことを伝えた時も、電話を代わってくれた時も、全く取り乱すことなく淡々としていた。私と大違いだ。
成瀬さんが傍にいてくれて良かった。彼があのタイミングで帰ってこなければ、私は今頃どうなっていただろう。
…お風呂を出たら、改めてちゃんとお礼を言おう。
いつもと違うシャンプーやボディソープのせいで、慣れない匂いに包まれたまま浴室を出て、用意してもらったバスタオルで身体を拭う。そのタオルもまた成瀬さんの匂いがして、くすぐったい気持ちになった。
追い討ちをかけるように用意されたのは、成瀬さんのTシャツとハーフパンツ。雨で濡れてしまった私の服は、成瀬さんが洗濯をしてくれることになったから、その代わりの服だ。
下着が無事だったのが救いだけど、まさか成瀬さんの服を着ることになるなんて…。
恐る恐る袖に腕を通すと、長身の彼の服は案の定ぶかぶかだった。ズボンはずり落ちてしまわないか不安になるレベル。細身な彼だけど、意外とガッチリしていることがこの服で分かる。
そこにまた“男”を感じて、顔に熱がこもった。
「顔が赤いな」
ソファに座り、パソコンと向き合って仕事をしていた成瀬さんに改めてお礼を伝えに行くと、彼は開口一番そう放った。
「お風呂上がりはいつもこうなるんです」なんて言い訳しながら、慌てて両手で頬を隠す。
ダメだ、成瀬さんの服の匂いのせいで、熱が全然引いてくれない。
「もしかして逆上せた?具合は悪くないか?」
ただいつものように赤面しているだけなのに、心配そうに尋ねてきた成瀬さんはテーブルの上にあるミネラルウォーターを手に取ると、それをそのまま此方に差し出してきた。
「…大丈夫です、ありがとうございます」
躊躇いながらも受け取ると、彼の目が優しく細められた気がした。
このミネラルウォーターは、私のためにあらかじめ用意してくれていたのだろうか。
彼の優しさに、今度は胸が熱くなった。