つれない男女のウラの顔

お風呂上がりの彼女を見て、思わず息を呑んだ。

頬を火照らせながら俺の服に身を包み、しおらしい態度で部屋に戻ってきた花梨。ふいに俺と同じシャンプーの匂いが鼻先を掠め、途端に脈がはやくなるのを感じた。


「顔が赤いな」


この緊張を悟られないように発した言葉に、花梨は照れくさそうに「お風呂上がりはいつもこうなるんです」と呟く。そんな彼女を見て、自然と“可愛い”という感情が芽生えた。こんなことは生まれて初めてだった。


もし俺が、花梨をあのまま部屋に入れなかったら、今頃石田がこの花梨を見ていたのだろうか。あの男が、鍵だけ渡してすぐに彼女を解放するわけがないのだから。

そう思うと無性にむしゃくしゃして、柄にもなく説教じみたことを言ってしまった。


「あいつとはなるべく関わらない方がいい」


そんなの俺が決めることじゃない。他人のことなんて放っておけばいい。そうやって周りを突き放して今まで生きてきたはずなのに、どうしてこんな台詞を言ってしまったのかと、自分でも驚いた。


ひとつだけ分かるのは、石田みたいな人間が苦手というのもあるけど、それだけじゃなくて。ただ純粋に、花梨が傷付いているところは見たくなかったんだ。

その理由は恐らく、俺が花梨に対して仲間意識があるから。花梨の人と関わろうとしないところは俺とそっくりだし、お互いに共通の秘密を持っているし。

だからこれは、独占欲とかそんな子供みたいな理由ではない。うん、絶対にそう。

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