つれない男女のウラの顔
食事の最中、男が苦手だと言う花梨の言葉に妙に納得した。こうして会話をするようになってからまだ日は浅いが、男慣れしていない感じがひしひしと伝わっていたから。
あまり目は合わないし、いつもどこか不安げ。石田の作戦を見抜けないあたりも不慣れな証拠。
彼女に嫌悪感を抱かない理由は、そこにもあるのかもしれない。色目を使ってくる周りのやつらとは違うから。
俺も人のことは言えないが、花梨は男に免疫がない。やはり共通点が多いから、一緒にいても違和感がないし、放っておけないのだと思う。
───そんなことを考えていた矢先
「こんな私でも、一応彼氏がいたこともあるんですけどね」
唐突に放たれた台詞に、ガツンと頭を殴られたような感覚に襲われた。
いやどんな冗談だよ。その感じで彼氏?慣れてないとか嘘じゃねえか。
心の声が荒ぶる。途端にもやもやし始めて、すき焼き弁当の味がしなくなった。
もしかして弄ばれてる?どうして俺が彼女の言動で一喜一憂しないといけないんだ。
一気に食欲が失せた。思わず出てしまいそうになった溜息を、なんとか飲み込む。
こっちの気持ちを知らない花梨は「びっくりしました?」とへらりと笑う。
今年一びっくりしたわ。と心の中で突っ込みながら「聞き間違いかと思った」と正直な感想を述べた。
けれど蓋を開けてみれば、付き合っていたとは言い難いほど、中身はまるで子供のような“お付き合い”で。「相手に悪いことをした」と眉を下げる花梨を見て、綺麗な心の持ち主だと思った。ただ──…
“デートの経験もなければ、彼に触れたことは一度もありません”
この言葉にやけにほっとしたのは、どうしてだろう。