つれない男女のウラの顔
だからあの時やたらと距離が近かったんだ。
しかも私は私で、石田さんと少しでも距離を取るためにバッグを彼のいる方に持ち替えた。おまけに雷のことで頭がいっぱいだったから、鍵を引き抜かれたことに気付けなかった。
小さなことが次々と繋がっていく。何一つ見抜けなかった自分が恥ずかしい。
「石田さんがそんな人だったなんて信じられないです…」
「石田の周りで花梨と接点を持ちたいやつが何人かいるらしく、何としてでも自分が一番に近付きたかったって。しょうもない理由だよな」
“別に悪用しないし、何か企んでるわけじゃないよ。ただ純粋に親睦を深めたいだけなんだ。花梨さんと話してみたいってやつが結構いるからさ。もちろん僕も含めて”
あの時の言葉は、一体何だったんだろう。
人間不信になりそう。いや、信じられる人なんて元々そんなにいないけど。
「花梨の連絡先と通話の履歴は削除させて、二度と花梨に近付くなと釘を刺しておくよう頼んでおいたから、当分は何もないと思うが…」
「二輪さんそんなことまで…。すごくありがたいです」
「普通に許されることではないからな。次に何か行動を起こしたら、上司に全て報告すると伝えたらしい。本人は反省していて、花梨に直接謝罪したいみたいだが…」
「えっ…今はちょっと…会いたくないです。謝られても、どう返せばいいのか分からないし」
「そう言うと思って、とりあえずは断っておいた。でももし気が変わったらいつでも言ってくれたらいい。その時は二輪や俺がそばにいてあげるから」
そこまでしてもらうのは申し訳ない気がするけど、成瀬さんや二輪さんが味方だと思うと心強い。今こうして取り乱すことなく話が聞けているのも、信頼出来る成瀬さんが傍にいるからだ。
そもそも、成瀬さんがずっと傍にいてくれたから昨日も石田さんに会わずに済んだし、こうして無事に鍵も返ってきた。
ほんと何からなにまでお世話になりっぱなしで、申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、成瀬さんがいてくれて本当によかった。