つれない男女のウラの顔

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。成瀬さんのお陰で助かりました。私ひとりじゃ何も出来なかった…。でもこんなに良くしていただいて、どうお礼をすればいいのか…」

「俺が好きでやったことだから。悪いのは全て石田だしな」

「でも…」

「それに言っただろ、花梨が傷付くところは見たくないんだって。もう充分傷付けられたかもしれないが…」

「いえ、思ったより平気です。成瀬さんや二輪さんの存在がとても心強いので」

「それならいいが、今は何ともなくても時間が経てばまた不安なことが出てくる可能性もあるから、何かあればいつでも報告してくれたらいい。二輪はかなり変わっているけど、良い奴だよ」

「成瀬さんが信頼している方は、私も信じられます。今度お礼言わなきゃ…」

「俺から伝えとくよ。二輪に捕まると嫁自慢しかしないから面倒くさいぞ」


少し空気が和んだ。成瀬さんが気を使ってくれているのが分かる。その優しさが沁みて、胸が熱くなる。


無事に戻ってきた鍵を握りしめながら、運転する成瀬さんの横顔を横目で見つめる。整ったEラインは嫉妬するほど綺麗で、ハンドルを握る手も、ミラーを確認する仕草も、全てに目を奪われてしまう。


「乗り心地は悪くないか?」

「いえ、全く。むしろとても良いです」


見つめているのがバレたのかと思い、慌てて窓の外に視線を向けた。

乗り心地が悪いどころか、運転が上手で微かな揺れが心地いい。ムスクの香りもキツ過ぎず上品で、全てにおいて心が落ち着く。


「普段はタクシー以外の車に乗ることがあまりないので、ドライブみたいで楽しいです」

「それならよかった。本当は花梨に書類を渡しに行った時、ついでに鍵を返したかったが、その時はまだ二輪が持っていたんだ。石田の件は電話で報告を受けて、その後すぐに花梨のところへ向かったから」

「すぐに来てくださったんですね。ありがとうございます」


もしかして、私が石田さんと接触する前に急いで来てくれたのだろうか。成瀬さんってば、どれだけ機転が利く人なの。

朝一で自分から石田さんにメッセージを送らなくてよかった。
ていうか二輪さんと成瀬さんの連携プレーが凄い。同期ということは付き合いも長そうだし、性格は似ていないけど気持ちが通じあっているのかも。
全てがスムーズにいってて……………………ってあれ、ちょっと待って。


昨日、成瀬さんが石田さんの電話に出た件はどうなった?

石田さんはあの時の電話の相手を、誰だと思ってる??
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