つれない男女のウラの顔
「あの…成瀬さん…ひとつ気になることがあるのですが…」
「どうした?」
成瀬さんが此方を一瞥する。不安を隠しきれない私は、顔を引き攣らせながら口を開く。
「昨日、成瀬さんが電話を代わってくださったじゃないですか。石田さんはその電話の相手が成瀬さんだってこと、気付いているのでしょうか…?」
もし成瀬さんと一緒にいたことがバレていたらどうしよう。変な誤解を生んで、嘘の噂が流れたりしたら、成瀬さんに多大な迷惑をかけてしまう。
想像するだけでみるみる顔が青ざめていく。背中に変な汗が伝う。
「ああ…そのことだけど…」
「……」
「その、怒らないで聞いてほしいんだが…」
「……え?」
成瀬さんの様子がおかしい。いつも淡々と話すのに、どこかぎこちない。
一体何を言おうとしているのだろう。躊躇っている成瀬さんを見ていると、こっちまで不安になってくる。
「二輪に頼んで、一応あの電話の相手が俺だということは伏せてもらった。ただそうなると、どうやって二輪に繋がったのかという問題が出てくるわけで…」
伏せたのなら大丈夫なはずなのに、どうしてそんなに気まずそうにしているの…?
「二輪は石田に、こう証言したらしい。“俺の友人が花梨さんと付き合っている。だからあの電話の相手は花梨さんの彼氏で、今回の件が俺の耳に入ったのは、その友人から相談を受けたからだ”と」
「……かれ、し…?」
「そう、彼氏。俺はそこまでしろなんて言っていないが、二輪が勝手に…」
慣れないワードに、思考が停止した。ポカンとする私に、成瀬さんは「勝手なことをして申し訳ない」と謝罪する。
とりあえず一旦頭の中を整理しよう。
つまり私には彼氏がいて、その彼氏と二輪さんが友人で。
石田さんが私の鍵を持っている件を、私の彼氏が二輪さんに相談した。その結果、二輪さんが石田さんから鍵を取り返してくれて、無事に私のもとへ戻ってきましたと。
……………え、それはセーフなの?
電話の声で、実は相手が成瀬さんだってバレてたら…?