つれない男女のウラの顔

今度は全身から冷や汗が出てくる。これって、謝罪するのは私の方なのでは。
成瀬さんを変なことに巻き込んで、挙句の果てに私の彼氏だと勘違いされていたら大問題だ。


「そ、それって、いくら名前を伏せたとしても、電話の声で成瀬さんだってことがバレたんじゃ…?」

「それは大丈夫だと思う。石田とはあまり会話をしたことがないし、声だけで判断するのは難しいだろうから」


本当にそうだといいけど、不安な気持ちは消えない。成瀬さんも誤解されるのだけは避けたいだろうし。

二輪さんったら、なんで“彼氏”だなんて言ったんだろう。せめて友人とか兄とか、他にも色々あったはずなのに。

それとも…


「二輪さんが私達の関係を勘違いしている、なんてことはないですよね?」

「もちろんそれはない。こうなった経緯も全て説明した。隣の部屋に住んでいることも、昨夜花梨が俺の部屋で過ごしたことも話すことになってしまったが、絶対に他言するなと伝えてある。二輪は言いふらしたりするようなやつじゃないから安心してほしい」

「なるほど…分かりました。成瀬さんがそう仰るなら安心です」


ここまで成瀬さんが言い切るなら、きっと大丈夫なのだろう。完全に不安は消えないけど、私にとって大事なのはこれ以上成瀬さんに迷惑がかからないことだから。


「…ただ、ひとつ気になることがあって」

「なんでしょう…?」

「もし花梨に社内で気になる人がいるなら“彼氏持ち”というのは今すぐ撤回した方がいいかと…。石田が他の社員にその情報を漏らす可能性もあるからな」


“社内で気になる人”
このワードに、なぜか成瀬さんの顔が頭に浮かんだけど、首をぶんぶんと横に振ってすぐに脳内から消した。


「いえ、大丈夫です。社内恋愛なんて考えたこともないし、きっと私には向いていないので。彼氏持ちという情報が出回ったとしても、何も問題ありません」

「……そうか。ならこのまま突き通すよ」


成瀬さんが気になる?いやいや、私なんかが烏滸がましいでしょ。
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