つれない男女のウラの顔
ふと窓の外を見ると、いつの間にかアパートのすぐそばまで来ていた。
もうすぐこの車を降りなくてはいけない。きっとこれが最初で最後。そう思うと、なんだか少し寂しく感じた。
「車だとあっという間ですね。あ、そうだ。成瀬さんはどのお酒が一番好きですか?普段はビールを飲まれているイメージですけど…」
「酎ハイのような甘いものはあまり好きではないが、他は何でも。飲み会だと相手に合わせたりするけど、基本ビールが多いかな。でもそれがどうした?」
「お礼の品はやっぱりお酒がいいかなと思ったので、せっかくなら成瀬さんの好みを聞いておきたくて。昨夜は私もいただいてしまったし…」
「だったら、このまま近くのスーパーに寄ろうか」
「え?!いや悪いですよ。後ほど自分で…」
「重いものを買うときは車の方が便利だろ。それに俺もちょうど買い出しに行きたかったから」
成瀬さんそう言うと、アパートの前を通り過ぎて近所のスーパーに向かった。
まだもう少しここにいられる。運転する成瀬さんを盗み見ることが出来る。
成瀬さんには絶対に言えないけど、それがすごく嬉しかった。
夕方のスーパーは人でごった返している。保育園のお迎えのあとなのか、小さな子供を連れている人も多い。
だけど私はこの人の多さを気にしている余裕なんてなかった。普段よく利用しているスーパーで、あの成瀬さんと一緒に買い物していることが信じられなくて、今にも心臓が爆発しそうだからだ。
お互いに連絡先を知らないから、はぐれないように成瀬さんの後ろをついて歩くけど、本当はひとりで冷凍食品のコーナーに逃げたかった。ドキドキしっぱなしで顔がずっと熱い。少しでも体温を下げたい。
「とにかくどんどんカゴに突っ込んでくださいね!せっかく車で連れて来てもらったので、この際ビールはケースでいきましょう!どの銘柄にします?!」
緊張でテンションが定まらない。無駄に張り切る私を見て、成瀬さんが「そんなにいらないから」と目を細める。
その笑顔が眩しすぎて、また心臓が激しく波打った。
破壊力がすごい。顔だけじゃなく全身が火照る。今すぐ冷凍庫に入りたい。