つれない男女のウラの顔
彼の帰りを待っていたかのようなタイミングで声を掛けてきたその人は、成瀬さんと目が合うと「やっぱり成瀬くんだ」と破顔した。
この人は誰?成瀬くんってなに?
思考が追いつかない。でもなぜか胸がざわつく。なぜだか分からないけど、この先を見てはいけないような気がする。
「久しぶり。元気だった?」
「…どうして一ノ瀬がここにいる?」
「よかった。私のこと覚えててくれたんだね」
一ノ瀬と呼ばれたその女性は「忘れられていたらどうしようかと思った」と顔を綻ばせながら少しずつ成瀬さんに近付く。成瀬さんはそんな彼女を見つめたまま一歩も動かない。
パッと見冷静で、無表情。だけど何となく分かる。あの成瀬さんが動揺している。
「まだここに住んでいたんだね」
懐かしむようにアパートを一瞥した彼女は、再び成瀬さんに視線を戻すと「実は私、先月こっちに戻ってきたんだ」と続けた。
アッシュ系の色に染められたショートカット。ボーイッシュな見た目の彼女は、背が高く凛としている。キリッとした目と高い鼻が印象的で、小顔で脚も長く、モデルのようなスタイルに思わず見入ってしまう。
昨夜成瀬さんは、男性ばかりの環境で育ったから女性には免疫がないと言っていたけど、こんなにも綺麗な女性の知り合いがいたらしい。
「何か用があって来たのか?」
「うん、あの時の話の続きがしたくて。電話しようと思ったんだけど、直接会いに来ちゃった」
“あの時の話”って何だろう。私は部外者なのになぜか気になる。胸がモヤモヤする。