つれない男女のウラの顔
「相変わらずそっけないね」
苦笑した一ノ瀬さんは「分かったよ。今日は大人しく帰ります」と小さな溜息を吐いた。
「でも覚えてて。この4年間、私の気持ちは変わらなかったってこと」
「一ノ瀬、俺は」
「今は何も言わないで。私だって、急に前のように戻れるなんて思ってないから。ただ私の気持ちを知っててほしかっただけ。また会いましょう」
一ノ瀬さんは一方的にそう告げると、力なく手を振り、踵を返した。その背中が切なくて、なぜか胸が苦しくなった。
このまま放っておいていいのだろうか。成瀬さん、送らなくて大丈夫なの?
私が知っている成瀬さんはとても優しい人だ。なのに、まるで彼女を突き放すような態度をとった彼が少し信じられなかった。
ふたりの間に一体何があったんだろう。
追いかけなくていいんですか?と尋ねようとしたけれど、私が口を開く前に「いこう」と背中を押され、喉まで出かかった言葉は結局声にはならなかった。
成瀬さんに触れられた背中が熱い。成瀬さんの熱を感じたのは、引越し初日に彼の胸にダイブした以来だ。
いつもの私なら絶対に赤面している。頭の中がそのことでいっぱいになる。なのになぜか、いまの私は顔が火照るどころか熱が引いていく。モヤモヤして落ち着かない。
成瀬さんの横顔をチラっと盗み見ると、珍しくぼんやりとしているように見えた。
(一ノ瀬さんのことを考えているのかな…)
胸がチクチク痛む。
どうしてこんなにも心が落ち着かないのだろう。