つれない男女のウラの顔
「綺麗でかっこいい方でしたね。仕事をしながらご両親のお店も手伝うなんて、きっと人柄も素敵な方なんだろうなあ」
成瀬さんは元々モテるけど、一ノ瀬さんはきっと成瀬さんの中身を知って惚れたのだと思う。
彼女も彼の優しさにたくさん触れたんだろうな。たまに見せる穏やかな笑顔も見ているはず。あの車にも乗ったのかな。アパートの場所を知っていたくらいだし、成瀬さんの部屋にも入ったことがあったりして。
そんな彼女に告白されたのだから、成瀬さんが彼女を意識しないわけがない。ふたりの関係は、きっと私が思っている以上に深い。
「告白の返事は、考えていたんですか?」
ここまできたのなら全て聞いてしまおう。相変わらず心は落ち着かないけど、成瀬さんのことが知りたいから。
自分のことを話してくれるということは、少なからず私にも心を開いてくれていると思う。些細なことだけど、それが嬉しかった。
「思いを告げられた時、俺は断るつもりでいた。付き合うということにあまり興味がなかったし、彼女に対してそういう気持ちがあるのかもよく分からなかったから。だけど“返事はゆっくりでいいから考えてほしい”と言われて、気付けば答えを出さないまま2週間くらい経っていたかな」
「成瀬さんなりに真剣に彼女のことを考えていたんですね…」
「そうだな。他の繋がりもあるし、適当にあしらうことは出来なかった」
成瀬さんの声に耳をすませながら、自分用に取っておいたトマトを口に入れる。
美味しい…と言いたいところだけど、あまり味がしない。甘さはなく、少し酸っぱい。
「失礼な話だが最初は彼女を本当に男だと思っていたから、話をすることにあまり抵抗もなかったし、性格もサバサバしていたから接しやすかった。向こうも仕事が好きな人間だから、そういう点では気が合うし、今までのような関係でいられるなら付き合うのもありだと思った」
ああ、やっぱり。成瀬さんは一ノ瀬さんと付き合う気でいたんだ。
「その頃から一生独身でもいいと思っていた俺にとっては結構思い切った決断だった。でも、結局この話はなかった事になったけど」
その声は冷静で、いつものように淡々と話しているけれど、私に気を使わせないようにしているのか、何となく明るく振舞っているのが分かる。
それがまた苦しくて、胸が押し潰されそうになった。