つれない男女のウラの顔

人のために先回りして行動するのはらしくないと分かっている。だけど石田のことは以前から二輪に聞いていて、特に女関係になるとろくでもないことは分かっていたため、何としてでも花梨と接触させたくなかった。

相手が石田でむしろ良かったと思う。朝イチで行動してくれた二輪のお陰で、あっさりと鍵を取り返すことが出来た。二輪が動く前に花梨が行動していなかったことに安堵しつつ、電話で報告を受けた俺はすぐに品質管理課に向かった。


井上主任が会議中なのも把握済み。なるべく自然に声を掛け、尚且つスムーズに情報を伝えられるように、あらかじめ付箋にメッセージを書いて忍ばせておいた。


品管は女性が多い部署なのもあり、いつもは躊躇いながら足を踏み入れるが、今日は自然と足が進んだ。

部屋に入るとすぐに花梨を見つけられた。マスクから覗く白い肌が一際目立っていた。

声を掛ける直前まで花梨は俺の気配に気付かなかった。思い悩んでいる感じ、恐らく石田のことを考えているのだろう。

艶のある長い髪に、細くて長い指は思わず目を引く。クールな表情は相変わらず近寄り難いオーラが出ているが、よく見るとぼんやりしていて、そこがまた可愛いと思ってしまった…なんて、絶対に花梨には言えないけど。


やっと俺の気配に気付いたのか、花梨はゆっくりと振り返る。その二重の綺麗な瞳が俺を捉えると、バカみたいに心臓が波打った。

赤面しそうになるのを堪えながら書類を渡す。付箋を見て動揺しながらも安堵を見せる花梨に、俺もほっと胸を撫で下ろすと、危うく頬が緩みそうになった。

とその時、微かに俺と同じ匂いが鼻先を掠め、慌てて踵を返したのはここだけの話。

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