つれない男女のウラの顔
4年ぶりに見る一ノ瀬は、昔とあまり変わっていないように思えた。そんなことよりも、すぐそばにいる花梨にとてつもなく後ろめたい気持ちになった。
どうして今更、このタイミングで?
4年前、覚悟を決めて一歩を踏み出そうとした相手。俺にとって、少なからず他の女より特別な存在なはず。なのに、俺の心は意外と落ち着いていた。一ノ瀬を見ても、何の感情も湧いてこなかった。
そこで分かった。俺にとって、本当に友達のような感覚だったのだと。
仕事に対する姿勢や、疲れた体で親の店の手伝いをするところは尊敬していた。でも、そこに恋愛感情は一切なかったらしい。
それに気づけたのはよかったけど、どうして今、このタイミングなんだ。と、隣で戸惑う花梨を見て、なぜか俺の中で焦りが募った。
追い払うようにして一ノ瀬と別れたあとも、心は落ち着かなかった。それでもなんとか平静を装いながら、部屋の鍵を開ける花梨を一瞥する。その横顔は何を考えているのか分からないけど、部屋に入る間際「色々とありがとうございました」と放った花梨の表情は、戸惑いを隠せていなかった。
無理もないよな。上司のみっともない姿を見てしまったのだから。でも、出来ることなら今あった出来事を花梨の記憶から消し去りたい。
そんな願いも虚しく、その後ベランダで会った花梨の口から出たのは「さっきの方は、元カノさん…だったりしますか?」という言葉だった。
適当にはぐらかすべきか、ギリギリまで迷った。一ノ瀬は元カノではないし、結局何事もなく終わった関係をいちいち説明する必要はないと思ったから。
けれど花梨は俺に何でも打ち明けてくれるのに、俺が花梨に対して適当な態度をとるのは良くない気がした。もし何かの拍子に本当のことを知られたら、花梨が俺に対して心を閉ざしてしまうんじゃないかと。
失望されることは慣れている。なのに、花梨にはそういう目で見られたくない。
そう思うと、自然と全てを話していた。でもその選択は間違いだったのかもしれない。
「おふたりはすごくお似合いだと思ったので、なんだか少し勿体無い話ですね」
そんな明るい声で言うなよ。俺が聞きたかったのは、そんな言葉じゃない。
遠回しに突き放された気分だった。いや、突き放すもなにも、俺達はただの同僚で、ただの隣人だけど。
──なのに、どうしてこんなにも苦しい?