振り向いて、ダーリン!



空気を吸う。
おいしい。


イヤホンで耳を閉じる必要なんかないくらい、静かで。
爽やかな世界だった。


夕焼けが、ぼやけていく。
それは、私の目から溢れるそれのせいだった。


「……ずっと、こうだったらいいのに」


口から出た声を聞いて、やっと自分の心を理解する。
私が望んでいるのは、平穏だけだった。


膝を引き寄せ、惨めに座る。
目を閉じると、液体はいっそう瞳からこぼれた。


ーーべろっ。


「へ」


ば、と目を開けた。
いま、なんか……。


「ぎゃあ!!」


目の前にいた謎の物体に、思わず飛び上がる。


そして、バランスを崩し、手をつこうとしたそこに地面がなかったので、土手の斜面にいたことを思い出した。


「ひゃ……」
「おい」


ばし。
あ。
落ちなかった。

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