ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
しばしの沈黙を破るかのように、
「マルクス」
とベルナルド様は低い声で王子を呼んだ。

無邪気な王子が一歩下がって身構えた。
おそらくベルナルド様の雰囲気がいつもと異なるのだろう。
 
「な、なんですか、叔父上?」
「カノンは私の婚約者(候補)だよ」
王子に優しく嗜めた。
今、ちっちゃい声で「候補」っていれたわね。横目でベルナルド様に細い目をむける。

「し、しかし!カノンは叔父上の婚約者候補の一人と聞きました!」

うん。その通りよね。

真っ直ぐな瞳でベルナルド様を見上げる王子。
ベルナルド様は王子を見つめ返す。そして顔色一つ変えることなく、
「ダメだ」
と首を振った。

「それに叔父上は誰とも結婚しないと父上と喧嘩していたではないか!」
「え?」
「マルクス!」

へええ。そんなこと話してたんだ。
ふうん。

ベルナルド様をさらに目を細めたジト目で見つめた。

怒るベルナルド様の表情を窺った。

ベルナルド様は明らかに動揺している。珍しく顔に出ている。


コホンと咳ばらいをしたベルナルド様は、
「さあ、カノン嬢には安静が必要だと言われただろう?負担になってはならないからね、私たちはお暇しよう」
と言って王子の背を押して退出を促した。


そして、ベルナルド様はこちらを振り返った。

王子に対するような優しい微笑みではなく、王族のよく教育された造笑顔で私を見る。

「カノン嬢、聴取の続きは明日にしよう。
今日はこのままこちらに泊って行くがよい。何かあれば医者を呼びなさい。
大事になさい。ルカ!」
ベルナルド様は視線をルーカス様に向け、目で合図をした。


ルーカス様はそれに頷くと、一切心のこもっていない視線を私に向けた。

「今日の事は他言無用で願います。
明日、またこちらに伺いますので勝手に帰らないようにしてください。・・・・・」

ルーカス様は少し前かがみになって私の頭の上空から囁いた。

「これも偶然ですか?
それともお得意の計算でこざいますか?」

バッと体を捻り、ルーカス様を見上げた。

「計算なわけがないでしょう!」


「失礼いたしました。
それではまた明日伺います」
と冷たい視線を浮かべたまま部屋を出て行った。



3人とそのお供の者たちが部屋から出て行って、室内に静寂が戻った。


「「はああああああ~」」

私とアイシャの溜息が響いた。


床へへたり込むアイシャにゆっくりと、
「ありがとう、アイシャ」
と言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
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