ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
  ***


国王から許可をいただいている頃、私はベルナルト様の執務室にある応接室にいた。

王子殿下はベルナルド様の所に来るだろうと予測なさっていたベルナルド様の指示で、私とアイシャが呼ばれ、ルーカス様に見張られるようにして座っていた。

もし王子殿下が父の執務室に来たと来ても、私がここにいることが伝わればよいということだった。


居心地の悪さを感じつつ、紅茶を飲みながらベルナルド様のお帰りを待っていた。


そこへベルナルド様とマルクス王子殿下が入って来た。

「待たせたね、カノン」
「べ、ベルナルド様」

ベルナルド様が両手を広げて私に近付いて来る。

いつもと全く違う、甘い艶のある声で私を呼ぶから、私は動揺して声が上擦ってしまった。

「陛下から許可が下りたよ」
「それはようございました」

ベルナルド様の色っぽい微笑みに、私は何とか微笑み返す。

聞いてない!
こんな顔で来るなんて聞いてないわよ!!
どれだけ色気をぶち込んでくるのよ!!
こんなにラブラブな雰囲気で来たら、婚約者候補じゃなくて婚約の許可が下りたみたいに見えるわ?!

しかもいつもより近い距離感にまで近づいてきたので、反射的につい一歩下がってしまった。
やばい!さがるのは不自然だわ!

慌てて両頬に手を当てて、
「ベルナルド様、マルクス王子殿下がいらっしゃいますのに、このように近付いては恥ずかしいですわ」
「ああ、すまない。つい嬉しくてね」
頭を撫でられて、逃げ出したくなるのをぐっとこらえる。

すると不機嫌な表情をしたマルクス王子が
「カノン!」
と呼んだ。

「はい」と返事をして、ベルナルド様につながれた手を放し、マルクス王子に向きなおる。

「本当に叔父上と婚約するか?
それでカノンはよいのか?
今なら断れるぞ?」

嘘を吐く罪悪感を覚えながら、しっかりと微笑んで見せる。

「はい。
私、ずっとベルナルド様をお慕いしておりましたから、とても光栄に思っておりますわ」

「だが!
カノンが毎日叔父上の所に行っても、叔父上は会ってくれなかったと聞いているぞ!
それでいいのか!?」

やはり追い返され続けていたのは知れ渡っていたのね。

「それでも今はこうしてお部屋に入ることも、お隣に立つことも許されましたわ。
マルクス王子殿下。
王子殿下とのご縁のおかげでこうしてベルナルド様と心を通わせることができました。
どんなにお礼申し上げても足りません。
本当にありがとうございます」

嬉しそうにベルナルト様と目を合わせながら伝え、王子殿下に深くお辞儀をした。

「マルクス、申し訳ない。
だが、其方のおかげだ。感謝しているよ」
ベルナルド様もきっちりと嘘を吐いた。

王子殿下は目に涙を溜めつつ、
「分かったよ、カノン・・・。
頭をあげてくれ。
叔父上!カノンを泣かせることがあれば私は許しません!」
と大きな声で言った。

うう。なんか、ごめん。
子供に泣かれると、いじめたような気分になってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

王子殿下はくるりを向きを変えて、扉の前に立った。
側仕えが扉を開けると、振り返って私達ににっこりと笑いかけた。

「婚約、おめでとう!!」

元気よく言って部屋を出て行った。




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