ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
ルーカス様はカツカツと私の前に立ち、両手を差し出した。

何?
小首を傾げると、上に向けた手の平を少し揺らして、
「お手を」
と言った。

ドキドキしながらも、ゆっくりと両手を重ねる。

「はい、ジャンプ」
「は?」

「軽くでいいです。跳んでください」
「え?飛ぶ?」

「はい。ジャンプ。せーの」

ぴょん。

「もう一度、はい」

ぴょん。

「もう一度、はい」

ぴょん。


何これ?


「よろしい。
では踊ってみましょうか」
と言って、片手を伸ばされ、もう片方の手は私の背中に回った。

え?

「はい、左手を置いてください」
「あ、はい」

言われるままに左手を背中に回っている方の腕に置いた。

「大きく踏み込まなくていいですから、リズムにあわせて足を動かしてみましょう」
「リズム……」

「1、2、3、1、2、3。このペースで行きますよ」
「はい・・・リズム・・・」

「1、2、3、1、2、ハイ、1、2、3、1、2、3、1、2、3」


1、2、3、1、2、3と数えながら、習った通りに足を動かす。

ルーカス様の声に合わせて動く。リードが上手いというのはこういうことをいうのだろうか?
動きやすい。

♪~。

そこへ静かにピアノの伴奏が始まった。
ピクリ。

伴奏が入ってくると途端に動きがギクシャクしてくる。

「私の声を聞いて」
「あ…はい」

「1、2、3、1、2、3」
「・・・・・・1、2、3」

一緒に小さな声でつぶやいた。

「そう、そのまま。
指先、背中の手、体の上下。そう言ったところに意識を集中して」

「1、2、3、1、2、3」
カウントを取りながらルーカス様と繋いだ指先に、背中に触れる手に、左手を置いた腕に、意識を向ける。


ルーカス様の胸元にあった視線を上に向けると、見下ろすルーカス様と目があった。

ドキッ。

慌てて視線を逸らす。

「背中を伸ばして。集中してください」
「は、はい!」

顔が火照ってるのが分かる。

でも、自分の顔ではなく、ルーカス様の動きに必死に意識を向けた。 


ジャン♪

曲が終わった。
はあはあ、はあはあ。…でき・・・た?

体を離したルーカス様を見上げた。
ルーカス様は微笑んで、頷いた。
「踊れていますよ」

わっ!嬉しい!踊れた!

アイシャがタオルと冷たい果実水を持ってきてくれた。
お礼を言って、ルーカス様にも渡し、口をつけた。

ベルナルド様が近づいてきて、
「次は私と踊っていただけますか?」
と手を出して、紳士の礼をとった。

「ええ、喜んで」
タオルとグラスを返し、ベルナルド様の手に自分の手を乗せた。

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