ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
***
「つ、疲れましたわ」
屋敷に戻った私は、湯浴みをしてベッドに倒れこんでマッサージをしてもらってる。
アイシャも疲れただろうから、今日はもう下がらせて他の侍女にしてもらっている。
「あなた、上手いわねえ。く――――、そこ、効くわあ」
なんて言っていると侍女は嬉しそうに笑ってぐいぐいと揉んでくれた。
結局ルーカス様とベルナルド様とそれぞれ3回ずつダンスを踊った。
もうヘロヘロ。
ルーカス様のダンスは丁寧で私を気遣ってくれるのがよくわかった。
ベルナルト様とのダンスは楽しいことを教えてくれるダンスだった。
最後にはカウントを声に出さなくても踊れるようになっていたから、ものすごい進歩だと思うの。
きっとあのお二人はものすごくお上手なのね。
アイシャと二人ではこうはいかなかったもの。
横に向けた顔の下に両手を入れ、目を閉じた。
アイシャに笑いかけたルーカス様の顔が浮かんできた。
ゆっくりと目を開けて、ベッドの縁を見つめる。
この胸の痛みは『奏音の記憶』。
私の痛みじゃない。
ルーカス様には瑠伽の記憶はないし、瑠伽でもない。別の人格よ。
たとえルーカス様の心にアイシャが住みついたとしても、それは仕方のないこと。
それに、私はルーカス様を愛しているわけではないもの。
ただ…ただ、『奏音の記憶』が瑠伽を好きだと訴えてくるの。
瑠伽じゃないと分かっていても、心が苦しくなってしまうの・・・おおおお!
「いたたた。ごめんなさい。もう少しゆっくり」
「あ。申し訳ございません!」
褒められて嬉しかったのか、侍女は額に汗を浮かべる程力強く揉んでくれていたようだ。
「大丈夫。もう少しだけ力を弱めてくれる?」
「はい。かしこまりました」
「ありがとう。……んんー、気持ちいいわぁ」
再び目を閉じると、気付けば眠りに落ちていた。