ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~

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昼食後。
ベルナルド様と二人、並んで池の周りをお散歩する。

2人といっても、少し離れたところから側仕えや護衛騎士たちが見守っているのだ。
なんとムードのないものだ。


そして私たちの会話も仕事の話で全くムードがない。
「ほほう、ニモウサク?」
「ええ。ずっと同じものを作っていると土地がやせ細ってきてしまって収穫量が減るというものです。
そのような時は種類の違う作物を植えるといいと聞いたことがあります」

奏音時代の地理で習ったことを思い出してアドバイスしてみる。
教科書の知識だから、この世界で当てはまるか不安はあるが、国民全員が飢えることなく食べるために必要なことならば、前世の記憶も役立つかもしれない。

「あとで調べる様に伝えよう」
と言ったベルナルド様に微笑む。

「きゃあ!!」
一歩、ベルナルド様から下がって距離を置いた私をみて、周囲に警戒のある目を向けた。

「どうした?!」
こわッ!蝶だよ!!
ベルナルド様の肩に蝶が止まっている!
私は虫が苦手。蝶はまだこちらに来なければ平気だけれど、バッタや蜘蛛は本気無理!

距離をとったまま、震える手で肩先を指さした。
「蝶が。肩に蝶が止まっております」
「ん?なんだ蝶か」
ご自身の肩を見て、そっと手を当てて蝶を逃がした。
ベルナルド様、素手で虫を触れるのですね。すごいわ。


「どうなさいました?」
ルーカス様とアイシャが私たちの様子を見て駆けてきた。
「ああ、ごめんなさい。
蝶がいたのに驚いて声をあげてしまったの」

「そうでございましたか。
何事かと思いましたよ」
ルーカス様がホッとして強張った顔をほぐした。

「それにしても、カノン様が虫を恐がるのは珍しいですね」
とアイシャが私を見た。
「え?そう?」
私、虫は本気で無理だけど?

かつて奏音だった時、一人暮らしのアパートに住んでいて、夜中にGが出てきて‥‥‥殺虫スプレーをかけたら逆にこちらに飛んできて反撃されるという、恐い目にあったのだ。あれ以来虫全般が苦手になったんだわ……。
あれは恐かった…。
ブルブルブル!
思い出しただけでも鳥肌がたつわぁ~。

アイシャはくすくすと笑いながら、
「以前、弟妹様と虫取りをなさって、沢山捕れた虫たちをお屋敷に持って帰って奥様に見せたら卒倒なさって」
と話し始めた。

「ああ、そういえば、そんなこともあったわね。
あの時はメイド長にこれでもかという程怒られたんだったわ」
自分の中にあるカノンの記憶を思い出す。

そういえばカノンは虫が全く平気だったわ。
今となっては……虫!無理!本気で!
もう決して触ることはないですわね。
なぜ触れることができたかすらわからないもの。

遠い目をして考えていると皆に笑われてしまった。


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