ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~
ベルナルド様は飛んでいる蝶を見ながら
「春だな」
と呟いた。

池の周りにはさまざまな草々が小さな花を咲かせている。
春の日差しが水面に反射してきらきらと輝いている。

「春ですねえ」
と、相槌を打つ。

こんなふうに4人で穏やかに話すようになるとは思ってもみなかった。
そんなことを思っていると、ルーカス様が「ふふ」っと薄く笑った。

「カノン様、今日は虫を連れて馬車には乗らないでくださいね」
「もう捕まえたりしないわよ」

「そうですか。それなら肩に止まっている虫には気付いていらっしゃっていない?」
「ええ!?」

ルーカス様に肩を指さされる。
なんですって!?虫!?
パッと肩を見ると、なんとそこにいたのは蝶ではなく、カマキリが止まっていた

きゃーーーーーー!
「きゃああ!!!」

いやあああああああ!!!
カマキリ!カマキリ!カマキリ!カマキリ!カマキリ!
こーーーーーわーーーーーーいいいいいいいいいいい!!!!!


腕をぶんぶんぶんと振り回す。


「カ、カノン様!」
アイシャが手を出そうとするが、躊躇している。

「大丈夫よ!カ、カマキリくらい!
アイシャは虫が苦手でしょう?!」
ぶんぶんぶんと振っていた腕をピタッと止めて、落ちたか確認する。
しかしそこには、振り落とされてはなるものかとでも思った(?)カマキリが服にしがみついた(ように見えた)。

まだいる!!!
ぶんぶんぶんぶん!
再度腕を振り回す。

ピタッと止めて腕を見て、再び落ちたか確認する。
目があった(ように見えた)カマキリは両手をあげてこちらに攻撃態勢をとった。

いやああああああ!!!

ぶんぶんと振ろうとした腕をルーカス様が止める。
「じっとしてください、今取りますから」
「ううううううううう」

半泣きになりながら、じっとする。

サワッ。
皮膚の出た鎖骨の上あたりに、カマキリの脚を感じた。

いやああああああああ!!!!!

じっとするように言われたので、体を石のように固くして心の中で叫びあげる!

恐いよう恐いよう恐いよう。

顔を大きく逸らし、ぎゅっと目を閉じてルーカス様がカマキリを取ってくれるのを待った。

「はい、もういいですよ、カノン様」

「ううう」
唸りながらそっと目を開けた。

パチパチと瞬きをして、溢れる涙を目から落とした。
そっと肩を確認して、そこにカマキリがいなくなったのを確認した。

「ううう。ありがとうございました」

「虫は平気なのではなかったのか?」
「うう。突然だったから驚いただけですわ。そ、それにカマキリはカマを持っているのですよ。危険ですわ」

まだ涙が出てきてしまうので瞬きをしながら、言い訳をした。

ベルナルド様は「はいはい」と言いながら、指先で涙を脱ぐってくれる。

「泣き虫だな」
と少し笑っている声は心から優しいものだった。


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