ラピスラズリ ~前世の記憶を思い出した伯爵令嬢は政略結婚を拒否します~

<突然の訪問と前世の記憶>

「きゃあ!」

私は飛び起きた。
首筋を伝う水滴。
血!?

慌てて腕で拭ってその腕を見た。
それは血液ではなく、悪夢を見て流した汗だった。


「カノン様、大丈夫でございますか?」

起き上がった体を慌てて支えてくれれたアイシャが不安気に私顔を覗き込んだ。

「だ、大丈夫よ」

「すごい汗ですよ。お水を飲まれますか?」
「え、ええ。いただくわ」

「どうぞ」
と水差しからコップに注いでもらって一気に飲み干した。

水を飲んでふうっと息を吐いたのを見たアイシャは私を見つめたまま、グラスを受け取った。

「ものすごく、うなされていらっしゃったので、お声をかけたのですが。お体が痛むのですか?」

「ううん。夢を…恐ろしい夢をみたの」


やけにリアルな夢だった…。恐い…。
けれど初めて見る景色だったのに、懐かしいような、よく知っているような郷愁を覚えていた。それがまた現実の出来事のようで恐かった。


そういえば、誰かが私の頭に触れていた。すごく震えていた。
そうおもいながら触れられていた頭を自分でも触れてみる。

・・・ん?
こめかみに違和感を覚えた。

「いたっ!!」
触ると、ぷくっと膨れた感触がある。
たんこぶが出来てる?どうして?

「どうして腫れているのかしら?」

「マルクス王子がふざけて階段の手すりから落っこちたのを助けたからですわ」
なるほど。確かにそうだったわね。

「あれ?でも私は顎は蹴られたけれど、頭を蹴られた覚えはないんだけど?」
「顎を蹴られた後、フラッと倒れて頭を打ったのでございます」
なるほど、納得。

「そういえば、マルクス王子はご無事でしたか?」
「はい。カノン様のおかげで無傷のようでしたよ」
「そう。それはよかったわ」
次期国王の体に何かあれば、とんでもないことになってしまうわ。

「カノン様。お水のお代わりを飲まれますか?」
「いいえ。もういいわ」

アイシャは座りなおそうとする私の体を支え、背中に枕を入れた。
そして、布団のシーツの上に転がったタオルを取り、盥の水につけて絞って、私のたんこぶに冷たいタオルを当てた。

アイシャに頭を冷やしてもらいながら、部屋の中を見渡した。

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