冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
部屋を取るという名目で、亜子を先に部屋から出す。

その間に学が話してくる。
「兄さんはそろそろ帰った方が良い。貴方がいるところを誰かに会社的に良くない噂が立つといけない。」

邪な(よこしまな)考えはこれっぽっちも無いが、誤解を招くような事は避けたい。

「そうだな、分かった。お前は…」

「僕はこのまま残って、亜子ちゃんを説得するよ。
他の客を取らせる訳にはいかないだろ?
下の位の子は下手したら1日に2、3人部屋を渡る子もいるらしいから。」

そんなに⁉︎
春を売る商売なのは百も承知だが、1日に何人も客を取るなんて考えられない。
そういう世界がある事を間近に触れ、現実を知る。

「…分かった。とりあえず、彼女を説得出来るまで毎日通え。金は俺が持つ。
…いいか、分かってるだろうが…。」

「安心して、妹より年下に興味はないよ。」
食い気味にそう言って学は笑う。

ここは弟を信用して、1人で帰る事にする。

帰り際、今夜のお金をとりあえず払うが、料理も含めて6円…これはあんぱん一個一銭に例えたら、はたして何個帰るやら…。

そう思いながらも、役職付きの給金をもらっている身としては、さほど痛い出費では無い。莉子の為だと思えば大した金額では無い。

説得まで長期戦になりそうだなと司は思い、足早に運転手の鈴木の元に戻る。

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