冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

妹ととの再会

次の日の朝、
誰よりも早く起き日課である剣道の稽古をする。これは学生時代からの習慣で、俺にとっては1日の調子を整える儀式のようなものになっている。

竹刀を無心で振っていると、入口の向こうに誰かの気配を感じる。

引戸をそっと開けると、驚き顔の莉子がいた。

廊下で身を屈めてこちらの様子を伺っていたようだ。
俺にとっては朝から嬉しい訪問者だ。片膝を付いて目線を合わせるように顔を覗きこむ。

「おはよう。どうした?こんな早くに。」

日頃から感情を表に出さない俺だから、素っ気ない態度になってしまうが、これでも気持ちは急上昇している。

「あの…おはようございます。
司様に…お話ししたい事があって…鍛練の最中にお邪魔して申し訳けありません。」

こっそり見ていた事に気付かれて、莉子にとってはバツが悪かったようで目が泳いでいる。

どんな表情も俺にとっては眼福でしかないのだが、最近は少し心を許してくれている気がして、どうしても距離を詰めてしまいがちだ。

「妹の亜子の事か?昨夜学から話しは聞いた。
俺も時間を合わせて神社に行くようにするから待っててくれ。」

「そうなんですね。良かった…ありがとうございます。」

師走の忙しい時期、神社では煤払い祭と称して縁日が開催される。新年に向けて今年1年の煤を払いや、身を清めるお祭りなのだが、忙しい仕事柄大人になってから一度も行った事がなかった。

久しぶりの莉子との時間だ。例え付き添いだとしても行かないわけには行かない。

「学と境内まで行っててくれ。17時に間に合うように行く。」
学と2人きりで行動させるのはいささか面白く無いが、どう考えてもその方が効率が良いからどうしようも無い。

「はい…。お忙しいのにすいません。」
そう言って恐縮する莉子の髪を優しく撫ぜる。

いつまでもそうしていたい程、滑らかなその感触を人知れず楽しむが、限られている時間はどうしようも無く過ぎて行く。

「莉子は煤払い祭は行った事があるのか?」

「いえ…縁日のように屋台が並ぶと学様から聞きましたが…。」

「そうだな。団子やべっこう飴なんかも売っているから、帰りに買って帰ろう。」

「はい。」
嬉しそうな莉子の顔が見れて、ひととき気持ちが和む。

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