冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「そうね…そうかも知れないわ…。
誰も私に花街がどんな所か教えてくれないの…。私は世間知らずのままよ……。」
莉子だって自分の考えの甘さはよく分かっている。世間知らずだって事も…

「私が教えてあげる。
花街は楽しく舞踊やお琴を弾いて暮らすだけじゃないの。
春を売るの…身体を差し出して、殿方を慰める仕事なの。誰だって構わない…来る人はみんなお客様だから…そうやって生きるしか無いの…。」

莉子だって薄々は勘付いていた。
最近毎日朝帰りの学や、それを見る麻里奈の目線の冷たさ。いつだって単刀直入に物を言う司が言葉を濁す事に…。

周りの人の優しさに、莉子はずっと守られていた。

亜子は急に立ち上がり、その場を逃げようと背中を向ける。
だけど、莉子はその手を掴んで離さない。

「亜子ちゃん待って…。」

それでも亜子はその手を振り払って逃げようとするから、莉子は引っ張られて冷たい雪の上に転んでしまう。

ハッとして亜子は足を止めて振り返る。

司は素早く駆け寄り抱き起こすと、莉子の身体を気遣う。
「大丈夫か?痛い所は?」

首を横に振る莉子の真っ赤な涙目に心がチクリと痛む。

そして立ち上がり、亜子に言う。

「君は…いつまでそうやって、我儘を言って甘えているんだ。」

亜子の目も莉子と同じく真っ赤だ。
司はその目を見つめ静かに話し出す。

「俺は莉子や学じゃ無いから優しい言葉は言えない。君には情も恩も無いからな。
だけど…これ以上、君を助けたいと思う人の心を踏み躙るな。

こんなチャンス2度と無いと思え。
俺だって君の我儘にずっと付き合ってはいられない。
2日後に俺と莉子はこの街を離れる。それまでに考えろ。

義理や意地もかなぐり捨てろ。その後の事は後で考えればいい。」

それだけ言って、莉子の冷たくなった手に丁寧に手袋をはめる。
「風邪を引いたらいけない、帰るぞ。」
莉子の手を取り、亜子の事を見る事も無く、

「学、後は頼んだ。」
と、弟の肩をポンと叩きその場を後にする。

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