冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
しばらく2人無言で歩く。

「…司様…申し訳、ありませんでした…。」
ポロポロ涙を流して歩く莉子の手を繋ぎながら、司は片方の手でハンカチを取り出し莉子の涙を拭く。

「妹に…キツイ事を言って悪かったな…。」

莉子はぶんぶんと首を横に振って返事をする。

「ありがとうございます…。きっと亜子ちゃんの心に届いたと思います。」

莉子だって、司がワザと突き放した冷たい話し方をした事に気付いている。それが彼の優しさだって事は重々分かっている。

「腹が減ったな。せっかくだから、何か屋台で温かい物でも食べて行こう。」

莉子の気持ちをどうにかして持ち上げたいが、司にはどうしていいか分からない。結局食べ物でしか心を動かす事の出来ないから、そんな自分の不甲斐なさに薄々嫌になる。

「莉子、うどんと蕎麦どっちにする?ああ、あそこにたい焼き屋もある。先に甘い物でも食べるか?」
ご機嫌を取るようにいろいろな屋台を覗いて歩く。

「…あの…司様…亜子に使ったお金は…どのくらいですか?」
言いにくそうに話す莉子の目はまだ真っ赤だ。

「莉子が気にする事じゃない。それより、とりあえずたい焼き買うか。」
莉子の手を引き歩き出す。

「気になります…。どうしたら…司様に、お返し出来るか…あの…。」

不意に唇に人差し指を当てられて莉子は驚く。それと同時に今朝の課題を思い出す。

「あっ…!ごめんなさい。課題を…お伝えしなくては。」

「ちゃんと考えてくれたか?」
司はたい焼き屋に向かいながら軽く聞く。
真面目な莉子の事だから今日1日考えさせただろう事はよく分かっている。

出した答えが何であろうと実はなんだって構わなかった。ただ、自分の事で1日中頭をいっぱいにして欲しかっただけで、他の心配事さえ考えさせたく無かっただけだ。

「あの…司さんって呼んでも良いですか?」
恥ずかしそうに言う莉子は涙が止まったようだ。良かったと心底安心して、司は微笑む。

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