冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「立ち話しもなんだから、招待席にひとまず行こう。」
若旦那に会えたお陰で一等席で観る事になる。
席もゴザでは無く、絨毯が敷かれ座布団まで用意されていた。
「こんな良い席をありがとうございます。」
司は思いがけなく席が確保出来た事にホッとしていた。
「いや、招待客もこの寒さだからあまり集まらなくて席が空いているんだ。丁度良かったよ。1人で一杯飲むのも虚しかったし。」
若旦那はどこかで買って来たのか、気付けば熱燗入りの籐籠を持っていた。
司達は履き物を脱いで座席に上がる。
司は履き物を無くさないよう莉子の下駄と共に、隅に並べようと何気なく手に持つと、莉子の雪用下駄がびしょ濡れな事に気付く。
「莉子、足袋が濡れて冷たく無いか?」
慌てて聞くと、
「あっ…本当ですね。気付きませんでした。」
と、フフッと莉子はどうでも無いと言うように笑う。
席に着くなり司は莉子の足袋を脱がせようとするから、
「だ、大丈夫です。自分で…脱ぎます。」
と、慌てて脱ぎ始める。
莉子はいつだって他人の事は良く気が付くのに、自分の事になると途端に無頓着になる。もっと自分を大事にしてくれと、咎めたい所だが…
莉子のつま先は霜焼けだらけで真っ赤に腫れてた。
これでは感覚が無くてもおかしくないと、司は自分のマフラーを解いて、正座する莉子の足先をぐるぐるとそれで巻く。
「いけません、これでは司さんが冷えてしまいます。」
莉子は司の心配をする。
「俺は平気だ。下駄屋が来てる筈だから何か代わりを買って来る。莉子はたい焼きでも食べて待っていろ。」
司は素早くそう答え、
「すいませんが、少し席を外します。彼女の事よろしくお願いします。」
と、若旦那にひとまず莉子を託し立ち上がる。
心細そうに司を見上げる莉子の頭を優しく撫ぜて、
「舞台が始まる前には戻る。」
と、司は言って席を立つ。
遊び人の若旦那に莉子を預ける事に少しの不安を感じながら、司は足早に出かけて行った。
「あの…紀伊國屋様、良かったらたい焼きお食べになりますか?」
1人で食べるのも憚られると莉子は若旦那に声をかける。
「僕はこれがあるから大丈夫。
しかし、司君は君の事をよっぽど大事にしているんだね。あんな彼を初めて見たよ。」
既におちょこで一杯やりながら、若旦那が気さくな感じで話しかけてくる。
記憶の中の若旦那と変わらない雰囲気に、莉子は少し安堵して、
「私が余りにも子供なので…司様にはいつも心配ばかりおかけしてしまうんです。私には勿体無いくらいの方です…。」
莉子は不甲斐ない自分にため息を付く。
「君は確か…どこかの貴族に養子に出されたと聞いていたけど、司君とは身分違いの政略結婚?」
若旦那は職業柄いろいろな情報や噂話しを耳にする事が多いのだが、莉子の事はなかなか分からず、それでいて以前からずっと気にかけていたから、どうしていたのかと心配していた。
小さい頃は良く冗談で、若旦那の許嫁にどうかと、大人達が話していた事もあるくらい、森山家との付き合いも深かったのだ。
だから、まさか商人である司の婚約者だと聞いてどうしても聞かずにはいられなかったのだ。
「司様とは…縁あって知り合ったのですが…
政略結婚ではありますが……司様が私を助ける為と言うか……。」
自分達の関係をどう説明して良いのか、莉子には難しく難題だった。
「えっと…要するに司様に、拾われた、と言う感じでしょうか?」
莉子は苦笑いしながらそう伝える。
「養子先で苦労したんだね…。
僕が君を司君より先に見つけ出せてたら…良かったな…。」
呟くように若旦那が言うが、莉子は意味が分からず首を傾げるばかりだ。
「君が今、幸せならばそれで良い。良い人に拾われて良かったね。」
若旦那が寂しそうに笑う。
「とても良くして頂いています。」
莉子はニッコリと笑い、たい焼きを食べ始める。
若旦那はそんな莉子を優しげに見つめ、かつて若かった頃の思い人は今、他人のものになってしまったのだとため息を吐く。
履き物の一件で、司がどれほど莉子を大切にしているのかは良く分かった。そして莉子もそんな彼に全信頼を寄せている。側から見たら相思相愛だ。
羨ましく思うと同時に、自分がもしも彼より先に莉子に再会出来ていたらと、つい思ってしまうほど嫉妬してしまったのだった。
若旦那に会えたお陰で一等席で観る事になる。
席もゴザでは無く、絨毯が敷かれ座布団まで用意されていた。
「こんな良い席をありがとうございます。」
司は思いがけなく席が確保出来た事にホッとしていた。
「いや、招待客もこの寒さだからあまり集まらなくて席が空いているんだ。丁度良かったよ。1人で一杯飲むのも虚しかったし。」
若旦那はどこかで買って来たのか、気付けば熱燗入りの籐籠を持っていた。
司達は履き物を脱いで座席に上がる。
司は履き物を無くさないよう莉子の下駄と共に、隅に並べようと何気なく手に持つと、莉子の雪用下駄がびしょ濡れな事に気付く。
「莉子、足袋が濡れて冷たく無いか?」
慌てて聞くと、
「あっ…本当ですね。気付きませんでした。」
と、フフッと莉子はどうでも無いと言うように笑う。
席に着くなり司は莉子の足袋を脱がせようとするから、
「だ、大丈夫です。自分で…脱ぎます。」
と、慌てて脱ぎ始める。
莉子はいつだって他人の事は良く気が付くのに、自分の事になると途端に無頓着になる。もっと自分を大事にしてくれと、咎めたい所だが…
莉子のつま先は霜焼けだらけで真っ赤に腫れてた。
これでは感覚が無くてもおかしくないと、司は自分のマフラーを解いて、正座する莉子の足先をぐるぐるとそれで巻く。
「いけません、これでは司さんが冷えてしまいます。」
莉子は司の心配をする。
「俺は平気だ。下駄屋が来てる筈だから何か代わりを買って来る。莉子はたい焼きでも食べて待っていろ。」
司は素早くそう答え、
「すいませんが、少し席を外します。彼女の事よろしくお願いします。」
と、若旦那にひとまず莉子を託し立ち上がる。
心細そうに司を見上げる莉子の頭を優しく撫ぜて、
「舞台が始まる前には戻る。」
と、司は言って席を立つ。
遊び人の若旦那に莉子を預ける事に少しの不安を感じながら、司は足早に出かけて行った。
「あの…紀伊國屋様、良かったらたい焼きお食べになりますか?」
1人で食べるのも憚られると莉子は若旦那に声をかける。
「僕はこれがあるから大丈夫。
しかし、司君は君の事をよっぽど大事にしているんだね。あんな彼を初めて見たよ。」
既におちょこで一杯やりながら、若旦那が気さくな感じで話しかけてくる。
記憶の中の若旦那と変わらない雰囲気に、莉子は少し安堵して、
「私が余りにも子供なので…司様にはいつも心配ばかりおかけしてしまうんです。私には勿体無いくらいの方です…。」
莉子は不甲斐ない自分にため息を付く。
「君は確か…どこかの貴族に養子に出されたと聞いていたけど、司君とは身分違いの政略結婚?」
若旦那は職業柄いろいろな情報や噂話しを耳にする事が多いのだが、莉子の事はなかなか分からず、それでいて以前からずっと気にかけていたから、どうしていたのかと心配していた。
小さい頃は良く冗談で、若旦那の許嫁にどうかと、大人達が話していた事もあるくらい、森山家との付き合いも深かったのだ。
だから、まさか商人である司の婚約者だと聞いてどうしても聞かずにはいられなかったのだ。
「司様とは…縁あって知り合ったのですが…
政略結婚ではありますが……司様が私を助ける為と言うか……。」
自分達の関係をどう説明して良いのか、莉子には難しく難題だった。
「えっと…要するに司様に、拾われた、と言う感じでしょうか?」
莉子は苦笑いしながらそう伝える。
「養子先で苦労したんだね…。
僕が君を司君より先に見つけ出せてたら…良かったな…。」
呟くように若旦那が言うが、莉子は意味が分からず首を傾げるばかりだ。
「君が今、幸せならばそれで良い。良い人に拾われて良かったね。」
若旦那が寂しそうに笑う。
「とても良くして頂いています。」
莉子はニッコリと笑い、たい焼きを食べ始める。
若旦那はそんな莉子を優しげに見つめ、かつて若かった頃の思い人は今、他人のものになってしまったのだとため息を吐く。
履き物の一件で、司がどれほど莉子を大切にしているのかは良く分かった。そして莉子もそんな彼に全信頼を寄せている。側から見たら相思相愛だ。
羨ましく思うと同時に、自分がもしも彼より先に莉子に再会出来ていたらと、つい思ってしまうほど嫉妬してしまったのだった。