冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
改札口を通り過ぎ、プラットフォームにたどり着いた時には莉子の息も切れ切れで、はぁはぁと肩で息をしている状態だった。

それでも数秒後に滑り込んで来た汽車に乗る事が出来てホッとする。

「走らせて悪かった…大丈夫か?」
莉子はこくんこくんと首を上下に振るのがやっとのようだ。

司は指定席に着いて、莉子をとりあえず窓際の席に座らせる。2人の荷物を頭の上の荷物棚に乗せ、莉子の抱えている風呂敷包みを預かると、隣の席に腰を下ろす。

まだ息が整わない莉子を気遣い背中をさする。

「お茶か何か…飲み物を買って来る。」
と、立ち上がりかけた司の手を慌てて莉子が掴んで止める。
「大丈夫、大丈夫です…。久しぶりに、走ったので…ごめんなさい…足手まといに…。」

「いや、違う。俺が来るのが遅くなったせいだ。」

「お仕事、ですから、仕方が無いです。」

「いや…実は、亜子が花街を出る決心をしてくれて、朝方、学と急ぎ行って来たんだ。」

「本当ですか!
良かった…ありがとうございます。」
莉子は思わず、掴んでいた司の手を両手で握り締めて喜ぶ。

「亜子殿の事は後は学と、正利君に任せて来た。正利君も落ち着いたら、亜子殿を連れて横浜に赴任する予定だから、しばしの辛抱だ。」

その言葉で莉子の頬から涙が伝う。

反射的に司は握られていない方の手を差し伸べ、そっとその涙を親指で拭う。

「…すいません…感情的に、なって、しまって…。」

そのタイミングで、汽車の汽笛が鳴り響く。

莉子は安堵と共に、新たなる新天地に思いを馳せ、繋いでいる司の手をぎゅっと握り締めた。
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