冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「今朝からずっと思っていたんだが、言うタイミング
を逃していた。…その服よく似合ってる。」
後ろから不意に抱きしめられて、

「あ、ありがとう…ございます…。」
返す言葉が見つからず、忙しなく脈打つ心臓をぎゅっと抑えて俯く。

「それと…同じ屋根の下男女が2人で暮らすには婚約者では、立場上世間体が良く無いと言われて、こちらの社員には結婚したと伝えてある。」

ああ、だからさっき…

奥様なんて呼ばれたのね…と、莉子は頭の片隅で納得する。

司の腕の中、くるりと向きを変えられて抱きしめられるまま、身動きも取れずに、ただ自分の心拍だけがドクンドクンと響く音を聞いていた。

「これまで籍を入れるなら、まずは莉子の兄妹の事をちゃんとしてからだと思っていたから言い出せなかったが、莉子さえ良ければ籍だけでも先に入れたい。

…どうだろうか?」

莉子からしてみれば、この後に及んで断るなんて出来るわけ無いのに、どうして聞いてくれるのだろうと思ってしまう。

「はい…あの…
不束者ですが…末長く、よろしくお願い致します。」

この抱きしめられた状態でどうかと思うが、他に挨拶の仕方も知らない。

「ありがとう…。」
司がそう言って、ふぅーと深い安堵のため息を一つ吐く。

このドキドキはいつになったら慣れるのだろう…。

莉子は自分が自分では無いような感覚を覚え、振り解く事もかといって抱き付く勇気も無く…。

ただ、じっと司に抱きしめられていた。

不意に顎に指をかけ、司がクイッと莉子の顔を上げさせる。莉子は瞬きをするばかりで、慣れないこの体勢にお手上げ状態だ。

「俺に…こうされる事は…嫌か?」

「…嫌、とかでは無く…緊張するというか…どうして良いのか…分からなくて…。」
至近距離で見つめられて、目線を背ける事も出来ず顔が真っ赤になってしまう。

しばらく見つめ合ったかと思うと、莉子の額にかかった前髪を少し掻き分け、怪我の傷に口付けが降る。
えっ⁉︎っと心拍は急上昇して、なすがまま。

頬を優しく撫ぜられたかと思うと、唇に温かく柔らかな何かが触れる。

2度目の口付けは、明る陽の光の中で恥ずかしさでいっぱいいっぱいだった。

誰かに見られるだとか考える余裕も無くて、何度となく角度を変えて降り注ぐその甘い口付けに酔いしれていた。

だから…

そこからの記憶はやたら曖昧で、いつまでもふわふわしていて、頭の中が思考停止になった。

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