冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
額に冷たい感触を感じ、意識が眠りから浮上する。

そっと目を開けると、司さんの整った綺麗な顔が目の前にあって、
「わっ⁉︎」
と驚く。

「ごめん。なかなか起きないから熱でもあるんじゃないかと思った。」
ハハッと声を出して笑う、貴重な司さんを見る。


「ご、ごめんなさい…寝ちゃって…。」
私は前髪を手櫛で直しながら、ボーっとする頭で慌てて身なりを整えながら起き上がる。

「よく眠れたのなら良かった。
今日は天気も微妙だし家でのんびりして、明日中華街に行く事にしようか。」

司さんがカーテンを開けると外は薄暗くどんよりしていた。

「残念です…。」
私も窓から空を見上げる。

「しかし…食材が無いな。昼から吹雪らしいから今のうちに一緒に買い出しにでも行くか?
近くの商店街なら歩いて10分だ。腹も減っただろ?」

「はい…嬉しい。」
観光よりも何よりも、司さんと長い時間一緒にいる事が嬉しい。

それから2人で急いで出かける準備をして家を出る。

いつのまにか人力車を呼んでくれていたらしく、玄関先で待っていた人力車に2人で乗り込み、近くの商店街に行く。

朝のキンッとした空気が冷たく頬を掠める。
私はぐるぐるに巻かれたマフラーに顔を隠しながら、そんな寒さでさえ楽しんでいた。

洋館が立ち並ぶ丘を降りると、日本家屋がちらほらと見える住宅街になる。
移り行く風景を楽しんでいると、司さんがわざわざ手袋を外して私の頬に触れてくる。 

手の温もりを感じながら、私もその手が冷たくなってしまわない様に手を重ねる。
「これじゃあ。どっちが温めてるのか分からないな。」
フッと笑う笑顔が眩しい。

商店街に到着して、まずは腹ごしらえをと小さな定食屋さんに入る。

温かなお茶を出されてホッと2人息を吐く。

2人で秋刀魚定食を注文して、お魚なの美味しさに思わず顔を見合わせて笑う。

ほんのちょっとの幸せを、こうして分け合う事の出来るこの幸せに心まで暖かくなった。

雪が降り出す前にお魚やお肉野菜、調味料に米や小麦粉、全ての食材を買い終えた頃には雪がしとしと降り始める。

司はとりあえずの食材だけを持って帰ることにし、残りの物は配達してもらう手配を整えてくれた。

人力車を待つよりも、歩いて帰った方が早いと判断して、2人手と手を握り、足速に家への道を戻る。

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