冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
客間で寝たきりの彼女と2人になる。

11月に入り、夜はめっきり気温が下がり寒くなって来た。それなのに…

彼女は赤い顔をして、苦しそうに呼吸をしている。
首筋には汗が流れている。寝巻きとして着せられた浴衣が既に肌に張り付くほどだ。

出来れば着替えさせたいところだが…
歳はかもない女子の肌を暴く事に躊躇する。
いくら看病だからといっても、見ず知らずの男が着替えさせたと知ったら嫌な気持ちになるだろう。

しかも俺は彼女に手をあげた男だ…。
怖がられ嫌われる事は目に見えている。

ハァーっと深いため息を吐いて天を仰ぐ。
自己嫌悪と罪悪感がこれまで以上に湧き上がり、頭を抱えてふさぎ込む。

それでも、ぬるくなった額の手縫いを冷たい水に浸して替えたり、頬の腫れを冷やしたりと看病を続けた。

夜中1時を回った頃、
様子を見に来た千代が彼女の寝巻きを着替えさせ、俺の為に1組の布団を敷いてくれた。

「お疲れでしょう。せめて横になって休むべきですよ。明日のお仕事に差し支えます。」

そうは言っても…これはマズイだろう。

家族でも無いのに、同じ部屋で異性と布団を並べて寝ると言うのは、病人だからと言ったって、道徳的に許されない気がして布団を畳む。

ずっと仕事一筋でここまで来たから、生まれてこの方家族以外の女子に触れた記憶が無い。
好いた女子の1人もいなければ、初恋すらも思い出せない。

そんな男が、まさか女子と2人っきりとは…。

向こうは怪我をして意識も無いのだ…
しかも目覚めた途端に怖がられるに決まっている。何を動揺しているんだ俺は…。

眠さで思考がおかしくなっているんだきっと。

俺はそう思う事にして、意識を彼女から逸らす為仕事カバンに手を伸ばす。

黙々と仕事の資料を読み続け平常心を取り戻す。

しかしやたらと寒くなってきた。
火鉢だけでは寒さは耐え切れず、布団を羽織って暖をとる。


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