冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

姉妹とは

汽車が到着したようで、改札口には沢山の人が押し寄せて来る。

莉子は見失わないように、キョロキョロと辺りを見渡している。

「支店長!莉子…!」
どこからか兄の声を聞き、莉子は堪らずそちらの方へと走り出す。そんな莉子を守るように司も着いて行く。

「お兄様…!亜子ちゃん!」
莉子が兄を見つけて飛び出して行く。
抱き合う兄妹に司は少しばかり嫉妬してしまう。

そして誰よりもこの中で1番冷静なのは亜子だった。

「亜子ちゃん…風邪を拗らせて入院したんだって?もう大丈夫?」
莉子が亜子を抱きしめるのに、亜子は笑顔も見せず棒立ち状態だ。

「支店長、これからいろいろとお世話になります。よろしくお願いします。」

兄の正利から体育会系の爽やかな挨拶をされて、司も爽やかに手を差し伸べる。

「今は仕事では無いんだ。義兄弟になるんだ、名前で呼んで欲しい。」

「光栄です。司さんと義兄弟になるなんて夢のような話しです。」

手を両手で握り返しながら、正利は嬉しそうに言う。

学生時代から尊敬して止まなかった先輩が、こうして自分の親戚になるなんて、正利にとっては叫びたいほど嬉しい事だった。

「家が決まるまで、しばらくうちに滞在してくれて良い。久しぶりに竹刀でも振ろうか。」

莉子は司からの申し出に飛び上がりそうなくらい喜ぶ兄を嬉しく思いながら、一言も話さない亜子を心配する。

「とりあえず、腹ごしらえにどこか寄って帰ろうと思うが?」
司が2人に聞く。

「亜子ちゃん、何が食べたい?洋食、和食、中華でも、亜子ちゃんが食べたい所に寄って行きましょ。」
莉子が亜子に問いかける。

「…洋食がいいです。」
言葉少なに亜子が言うから、

「それなら駅前の店にしよう。」
司が亜子の荷物を持とうと手を差し出す。なのに亜子はその手を見つめ、なかなか動き出そうとしない。

「亜子ちゃん、司さんが荷物を持ってくれるって。」
莉子がすかさずフォローする。

「あの、長谷川様。この度は、私のような者に多額の金額を出して頂き、本当にありがとうございました。この貸しは一生かけて返して行きたいと思っていますので、どうか…お姉様をお返し願いたいと思います。」
突然、深く頭を下げてそう言う亜子を、3人は驚きの顔で見つめ合う。

「亜子、何を言ってるんだ?莉子は別に人質になってお前の為に司さんの所に嫁いだ訳じゃ無いぞ。」

「そうよ。亜子ちゃん…司さんにはとても良くして貰ってるし、姉様は幸せよ。」

莉子は内心焦りながら、亜子に優しく笑いかける。

確かに…年末に会った時よりも姉は元気で顔色も良い。

だけど…冷酷で人を人とも思わない暴君だと、花街に来た客から噂を聞いていた。

この爽やかな笑顔の下にどんな冷酷さを隠しているのだろうと、亜子は思い警戒する。

「多分、俺の良く無い噂でも聞いたのだろう。そう思うのなら、君の目で良く見て判断してくれたらいい。さぁ、腹が減っただろう。早く洋食屋に行こう。」

司にして見れば警戒されて当たり前だと思うから、大した事では無いと先を促す。

仕事柄、どんなに最善を尽くしても敵が増える事は仕方ないし、確かに噂されるほどの冷酷さ自分にはあるのだと、充分理解している。

ただ、莉子と似た顔の亜子に警戒心をむき出しにされるのは、いささか心が沈むが。
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