冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
お姉様がお兄様と共に戻って来て、2人の話しはそこで途絶えたけれど、ついさっきまでの疑心暗鬼は風のように消し去り、全く違う目で彼を見るようになっていた。

話してみて思った事。
長谷川司は不器用だけど懐の深い優しい人なのかもしれないと言う事。

「冷めないうちに召し上がって下さい。」
お姉様の声で皆それぞれいただきますをして箸を持ち食べ始める。

私も好きな煮魚から手を付ける。

久しぶりに食べたカレイの煮魚は、何となく懐かしい味がして、気を張っていた心をそっと溶かしてくれるようだった。

「美味いな。」
長谷川司はそう言って煮魚を丁寧に骨をほぐして食べている。

お姉様は嬉しそうに微笑んで、
「お口に合って良かったです。」
と、ほっとした様子を見せていた。

2人はお似合いの夫婦だと今、やっとそう思えるようになった。

「あの、長谷川様、よろしかったら私ここで働きたいです。お姉様から料理や家事の全てを教えて貰いたいと思います。でも、お給金は要りません。私に払って頂いた金額がそれで全て払えるものでは無いとは思いますが…少しでもお力になればと思っています。」

「学校には通いたく無いのか?」
まだ14歳の亜子の可能性を思いそう声をかける。

「今はまだ…学校に行ったところで何をしたいとか、先の事まで見えなくて…だけど、料理は出来るようになりたいなと思います。」

そう伝える。

「そうね。少し生活に慣れる時間が必要かもしれません。私もそうでしたし…。
亜子ちゃんのやりたい事からゆっくり進んで行けば良いからね。」
お姉様が優しく微笑みかけてくれる。

これからは、私が私のやりたい事を自由に決められるんだ。そう思える未来が来るなんて…少しだけ生きる希望が生まれた気がした。

「ありがとうございます。」
私は私のやりたい事を探していこう。そしてそれがお姉様や長谷川司…様への恩返しになればと思う。

< 171 / 222 >

この作品をシェア

pagetop