冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「亜子も莉子も人生はこれからなんだ。これからは前だけ向いて頑張っていけば良い。」
お兄様がそう言って笑う。

「はい。」

これまでが無かった事には出来ないけれど、これからの人生は自分でどうとでも変えられる。
そう言う気持ちで立ち向かって行けばきっといつかやりたい事も見つけられる。

司様とお姉様のお陰でその機会を貰えたに過ぎない。2人に恥じないように生きていかなければ…。
私の中で不確かな光のようなものが生まれた。

お姉様を手伝い後片付けをする。

「初めてお皿を洗いました。今まで踊りや芸能界の稽古ばかりだったから…」
私がポツリと言うと、

「亜子ちゃんの舞台を観たわ。
あの…雪の日…舞踊もお琴もとても上手になったね。この6年間大変だったのはよく分かるわ。…生き抜いてくれてありがとう。」
お姉様が目にいっぱいの涙を溜めて、私を抱きしめる。

「お姉様も…大変だったのでしょう?こうして会う事は2度と出来ないだろうと思っていたので、あの時、本当は凄く嬉しくて…あんな酷いことを言ってしまい…申し訳ありませんでした。」

私は深く頭を下げる。お姉様は首を横に振り、
「貴方の立場になって考えてみたら仕方がない事よ。気にしないなくて良いのに…。司さんも同じように言い過ぎたって後で後悔していたわ。」

「長谷川様が…ああやって強く言ってくれなければ、私は意地を張り続けたと思います。せっかく手を差し伸べて下さったのに…無碍にしてしまって申し訳なかったと…今では思っています。」

「あの方に、その気持ちをいつか伝えられると良いわね。きっと…あの時から亜子ちゃんの事も、彼は家族のように思ってくれていたの。だから、厳しい言葉をかけてくれたのよ。」
そう言ってお姉様は私を優しく包んでくれた。

「…家族……。」

「兄をこちらに呼び寄せたのも、しばらく泊まってくれたら良いって言ってくれたのも、家族だから当たり前だって…彼はそう言ってくれたわ。」

ああ…いつの間にかあの方は…私なんかでも家族の一員として…認めてくれてくれていたんだ。

私よりも少し小さなお姉様をぎゅっと抱きしめ返す。

「お姉様…言うのが遅くなってすいません…。
ご結婚おめでとうございます。とても良い方に巡り会えて良かったですね。」

「ありがとう亜子ちゃん…。」

お姉様を取られた寂しい気持ちと、羨ましい気持ちが入り混じってずっとモヤモヤしていた心が、今やっと解き放たれて楽になった感じがした。
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