冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
夫婦とは何か?
莉子が後片付けを終えて寝室に行くと、司は既に風呂に入ったらしく、浴衣姿に着替えて1人ソファで難しそうな本を読んでいた。
「亜子ちゃんと一緒にお風呂に入ろうと思ったのに、断られてしまいました。」
莉子が寂しそうに言う。
「そうか。じゃあ、俺が一緒に入ってやるか?」
フッと笑った司が軽くそう言うから、
「えっ⁉︎」
と莉子は目を見開いて驚き、箪笥から寝巻きを取り出す事も忘れて司に視線を投げる。
「ハハハ…!冗談だ。間に受けるやつがあるか。」
と、楽しそうに笑い返す。
莉子はなんだか恥ずかしくなって、慌てて取り出した寝巻きで真っ赤になった顔を隠す。
「莉子が寂しいだろうから、下まで着いて行く。」
そんな莉子の頭を優しく撫ぜ、司は片手に読んでいた本を持ち、空いているもう一方の手で、莉子の手を握り歩き出す。
「ひ、1人でも大丈夫です…。」
慌てて手を引っ込めようと思うのに、
「遠慮するな。俺はお前の夫だろ?」
司は指を絡めてもっと深く手を繋いで来る。
いつもこうやって莉子が風呂に入る時、必ず下まで着いて来てくれる。
少し子供扱いが過ぎるのではないかと、自分の夫を見つめ返す。
莉子が風呂に入っている間、司は居間で本を読み時間を潰す。この時間に誰よりも幸福を感じながら、今日も変わらず莉子を待つ。
何気に、湯上がりの莉子が1番綺麗だと思っている司だから、夫としての特権を見逃したくないと思っているだけなのだが。
乾き切らない濡れ髪だとか、軽く結い上げたさえに見え隠れするうなじだとか…風呂上がりの莉子は妙に色気があり唆られる。
全ての魅力を振りまきながら、今夜も司を翻弄するのだ。
だけど本人はまったくそれに気付きもしないで、
「お茶でも飲みますか?」
と、夫である司を誘う。
「ああ、ありがとう。」
司も何気なさを装ってはいるが、内心触れたくなる衝動と戦っているのである。
差し出された湯呑みを見つめながら、
「手にちゃんと軟膏は塗ったのか?」
と莉子に聞く。
「いえ…まだでした。」
莉子が答えるより早く、司は立ち上がり小物入れの引き出しから軟膏を取り出し、ソファに座る莉子の手を取り、丁寧な手付きで軟膏を塗り始める。
それは少しくすぐったくて、莉子はいつまで経っても慣れる事が出来ないでいる。
司は至って真面目な顔で、指の隅々まで軟膏を塗っては傷がないかと調べている。
お陰で莉子の手は、昔のように白く綺麗な手に戻りつつある。司はその手を見つめながら、どこか記憶の奥底で見覚えがあると思っているのだが…
その都度思い出す事が出来ず、モヤモヤとした気持ちになるのだ。
「いつもありがとうございます。
お陰で、もう痛くも痒くも無くなりました。」
微笑む莉子に微笑み返してしばらく両手を握り続ける。
「どうしたの、ですか?」
不思議に思って首を傾げる莉子の左手の薬指に、司がそっと口付けをする。
ビクッと身体を震わせ反応する莉子を優しい眼差しで見つめ返す司が、
「今週末に結婚指輪が出来上がって来るから、家事をする時も風呂に入る時も肩身離さず付けて欲しい。」
懇願ともとれるような言い方をされ、莉子はたじろぎこくんと頷く。
「婚約指輪もちゃんと身に付けてますよ。
大事なものですから傷付かないように、お守り袋を作って帯の中に入れてあります。」
と、目線で在処を伝える。
やっと手を離した司は、それでは意味が無いのだと心の中で返答する。
一緒に出かける時だって、莉子を見つめる男達の視線は気になる程だ。
ずっと一緒にいる司さえ見惚れてしまうくらいなのだから、その気持ちは分からなくも無いが…。
その度に言いようのない不安に襲われるのは、夫だからと言う自負がまだないからだらろうか。
出来れば俺以外の男には指一本触れられたくない。莉子は俺のものだと、声を大にして言い回りたいくらいだ。
その為にも婚約指輪を身に付けてくれたら、男避けになったのに…と、司は貪欲にいつだって莉子を独り占めしたいのだ。
「結婚指輪は、錆びたり傷ついたりしないのですか?」
「ああ、プラチナという稀少な金属から作られたものだから錆びないし、普段使いが出来るように装飾は無い。俺も揃いのものを身に付ける。」
「殿方も身に付けるのですか?」
少し驚く莉子を可愛く思いながら、
「それが欧米では、結婚した事の証となるんだ。」
司はソファから立ち上がり、すかさず莉子の唇に軽く口付けをする。
莉子の心拍は急激に跳ね上がる。
恥ずかしくなって俯きながらも、抱きしめられた腕の中、安堵もするから不思議な気持ちを弄びながら、
「ありがとう、ございます…
司さんから頂いたものはすべて私の宝物です。大事にします。」
と、精一杯の感謝を込めて莉子がお礼を口にする。
だから、止められなくなって何度も口付けをしてしまうのだが、莉子は今日も優しく許してくれるのだろうと、つい司は調子に乗ってしまうのだ。
額をコツンと合わせて、
「お前が、止めてくれないからついやり過ぎてしまう。」
と司は苦笑いをする。
莉子としては夫婦になったのだし、その先に進んでもいいのにと思っているけど…そんな事口が裂けても自分から言える訳が無い。
籍を入れて1ヶ月。
未だに初夜は迎えられず、妻としての役目を果たせていないのではと心配になって来ている。
毎日一緒の布団で眠るのに、抱きしめられて眠るくらいで…世の中の夫婦が営むという初夜を、莉子は知らないままなのだ。
私の夫はよっぽどな人格者なのだろうか…?
それとも、本当に形ばかりのお飾りの妻なのかもと、落ち込む事もあるくらいだ。
私は女としてそんなにも魅力がないのかしら…。
乏しい自信さえも失いつつある。
「今夜は亜子殿と積もる話もあるだろう。
一緒に枕を並べて寝るのもいいのではないか?」
先に同じように思っていたけれど、司に遠慮して言い出せずにいたから、
「はい。そうしたいと思います。」
と、嬉しいそうに微笑みを浮かべる。
「亜子ちゃんと一緒にお風呂に入ろうと思ったのに、断られてしまいました。」
莉子が寂しそうに言う。
「そうか。じゃあ、俺が一緒に入ってやるか?」
フッと笑った司が軽くそう言うから、
「えっ⁉︎」
と莉子は目を見開いて驚き、箪笥から寝巻きを取り出す事も忘れて司に視線を投げる。
「ハハハ…!冗談だ。間に受けるやつがあるか。」
と、楽しそうに笑い返す。
莉子はなんだか恥ずかしくなって、慌てて取り出した寝巻きで真っ赤になった顔を隠す。
「莉子が寂しいだろうから、下まで着いて行く。」
そんな莉子の頭を優しく撫ぜ、司は片手に読んでいた本を持ち、空いているもう一方の手で、莉子の手を握り歩き出す。
「ひ、1人でも大丈夫です…。」
慌てて手を引っ込めようと思うのに、
「遠慮するな。俺はお前の夫だろ?」
司は指を絡めてもっと深く手を繋いで来る。
いつもこうやって莉子が風呂に入る時、必ず下まで着いて来てくれる。
少し子供扱いが過ぎるのではないかと、自分の夫を見つめ返す。
莉子が風呂に入っている間、司は居間で本を読み時間を潰す。この時間に誰よりも幸福を感じながら、今日も変わらず莉子を待つ。
何気に、湯上がりの莉子が1番綺麗だと思っている司だから、夫としての特権を見逃したくないと思っているだけなのだが。
乾き切らない濡れ髪だとか、軽く結い上げたさえに見え隠れするうなじだとか…風呂上がりの莉子は妙に色気があり唆られる。
全ての魅力を振りまきながら、今夜も司を翻弄するのだ。
だけど本人はまったくそれに気付きもしないで、
「お茶でも飲みますか?」
と、夫である司を誘う。
「ああ、ありがとう。」
司も何気なさを装ってはいるが、内心触れたくなる衝動と戦っているのである。
差し出された湯呑みを見つめながら、
「手にちゃんと軟膏は塗ったのか?」
と莉子に聞く。
「いえ…まだでした。」
莉子が答えるより早く、司は立ち上がり小物入れの引き出しから軟膏を取り出し、ソファに座る莉子の手を取り、丁寧な手付きで軟膏を塗り始める。
それは少しくすぐったくて、莉子はいつまで経っても慣れる事が出来ないでいる。
司は至って真面目な顔で、指の隅々まで軟膏を塗っては傷がないかと調べている。
お陰で莉子の手は、昔のように白く綺麗な手に戻りつつある。司はその手を見つめながら、どこか記憶の奥底で見覚えがあると思っているのだが…
その都度思い出す事が出来ず、モヤモヤとした気持ちになるのだ。
「いつもありがとうございます。
お陰で、もう痛くも痒くも無くなりました。」
微笑む莉子に微笑み返してしばらく両手を握り続ける。
「どうしたの、ですか?」
不思議に思って首を傾げる莉子の左手の薬指に、司がそっと口付けをする。
ビクッと身体を震わせ反応する莉子を優しい眼差しで見つめ返す司が、
「今週末に結婚指輪が出来上がって来るから、家事をする時も風呂に入る時も肩身離さず付けて欲しい。」
懇願ともとれるような言い方をされ、莉子はたじろぎこくんと頷く。
「婚約指輪もちゃんと身に付けてますよ。
大事なものですから傷付かないように、お守り袋を作って帯の中に入れてあります。」
と、目線で在処を伝える。
やっと手を離した司は、それでは意味が無いのだと心の中で返答する。
一緒に出かける時だって、莉子を見つめる男達の視線は気になる程だ。
ずっと一緒にいる司さえ見惚れてしまうくらいなのだから、その気持ちは分からなくも無いが…。
その度に言いようのない不安に襲われるのは、夫だからと言う自負がまだないからだらろうか。
出来れば俺以外の男には指一本触れられたくない。莉子は俺のものだと、声を大にして言い回りたいくらいだ。
その為にも婚約指輪を身に付けてくれたら、男避けになったのに…と、司は貪欲にいつだって莉子を独り占めしたいのだ。
「結婚指輪は、錆びたり傷ついたりしないのですか?」
「ああ、プラチナという稀少な金属から作られたものだから錆びないし、普段使いが出来るように装飾は無い。俺も揃いのものを身に付ける。」
「殿方も身に付けるのですか?」
少し驚く莉子を可愛く思いながら、
「それが欧米では、結婚した事の証となるんだ。」
司はソファから立ち上がり、すかさず莉子の唇に軽く口付けをする。
莉子の心拍は急激に跳ね上がる。
恥ずかしくなって俯きながらも、抱きしめられた腕の中、安堵もするから不思議な気持ちを弄びながら、
「ありがとう、ございます…
司さんから頂いたものはすべて私の宝物です。大事にします。」
と、精一杯の感謝を込めて莉子がお礼を口にする。
だから、止められなくなって何度も口付けをしてしまうのだが、莉子は今日も優しく許してくれるのだろうと、つい司は調子に乗ってしまうのだ。
額をコツンと合わせて、
「お前が、止めてくれないからついやり過ぎてしまう。」
と司は苦笑いをする。
莉子としては夫婦になったのだし、その先に進んでもいいのにと思っているけど…そんな事口が裂けても自分から言える訳が無い。
籍を入れて1ヶ月。
未だに初夜は迎えられず、妻としての役目を果たせていないのではと心配になって来ている。
毎日一緒の布団で眠るのに、抱きしめられて眠るくらいで…世の中の夫婦が営むという初夜を、莉子は知らないままなのだ。
私の夫はよっぽどな人格者なのだろうか…?
それとも、本当に形ばかりのお飾りの妻なのかもと、落ち込む事もあるくらいだ。
私は女としてそんなにも魅力がないのかしら…。
乏しい自信さえも失いつつある。
「今夜は亜子殿と積もる話もあるだろう。
一緒に枕を並べて寝るのもいいのではないか?」
先に同じように思っていたけれど、司に遠慮して言い出せずにいたから、
「はい。そうしたいと思います。」
と、嬉しいそうに微笑みを浮かべる。