冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「返事は今すぐ要らない。直ぐに受け入れられなくても、いつか莉子の心が動いてくれる事を祈っている。」

そう言うと、ヒックヒックと先程よりも、もっと泣き始めてしまうから俺は途方に暮れる。

こう言う時、どうすればいいのかさっぱり分からない。

莉子の細い背をそっと撫ぜてみるのだが、一向に泣き止む気配は無い。

「ご、ごめんなさい…。仕事に…出かける…準備を…。」
ヒックヒックと揺れる身体を落ち着けようと、莉子も必至で涙を止めようとしている。

両手で顔を覆い、小さく縮こまってしまう莉子に

「大丈夫だ。少しばかり遅れた所で支障は無い。」
と、支店長だと言う立場も忘れて莉子の事だけひたすら思う。

「だ、ダメです…そんな事、さ、させられません…。」
莉子が珍しく、強く言って離れて行く。

「ちょ、朝食を食べて、下ださい。私…支度をして、参ります。」

真っ赤になってしまった瞳で、まだ止まらない涙を拭きながら、それでも健気に俺を送り出す為に、パタパタと食堂を出て行ってしまう。

俺は少し取り残された気分を味わいながら、朝食をかき込み味噌汁で流し込み、なんとか短時間で完食して、莉子の待つ支度部屋へと足早に向かう。

少し気持ちが落ち着いたらしい莉子が、目を真っ赤にしながら、いつものように身支度を手伝う。

至近距離でネクタイを締めてくれる際、気持ちが昂り思わず抱きしめてしまう。

「ひゃっ⁉︎」
と、小さく悲鳴をあげるが特に嫌がる素振りも見せず、大人しく俺の腕の中すっぽりと収まり俯く。そのつむじまでも可愛いと、つい思ってしまう。

そこで、ボーンボーンと振り子時計は無情にも出発の時刻を告げる。

はぁーっと俺は深いため息を落とし、可愛いつむじに口付けをする。

「では…、行って来る。」
俺は後ろ髪を引かれる想いに駆られながら、吹っ切りようにと足を運ぶ。

「行って、らっしゃいませ…お気を付けて。」
頭を下げて見送ってくれる莉子に手を振り家を後にする。
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