冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

『森山伯爵の娘さんに会ってみたいわ。貴方を仕留めたくらいの女性なんだから、絶対素敵なレディに決まっているわ。』

夫人から英語でそう話しかけられて、俺はつい気持ちを露してしまう。

『私の方が彼女に心を奪われているんです。今でも彼女が側に居てくれる事を奇跡だと思っています。』

『まぁ、堅物な貴方からそのような話しが聞けるなんて、ますますお会いしたいわ。
そうだわ、来月開かれる岸森公爵主催の晩餐会はどうかしら?私から推薦状を書いておくから是非参加して頂きたいわ。』

夫人は楽しそうにそう言って俺を誘う。

『しかし…、私は残念ながら貴族の出ではありませんので、岸森公爵がどう思われるか…。』

未だ残る身分差別化を懸念して、莉子に少しでも嫌な思いをさせたく無いと怖気付く。

『日本のそういう所、良くないと思うわ。
私達だって元は貴族では無かったの。功績を認められ貴族の称号を与えられたに過ぎないのよ。私は貴方のこととても気に入ってるし、これからを担う若い世代が革命を起こす為にも参加するべきよ。』

革命か…それ程大それた事は出来ないが、一石投じるくらいにはなるだろうか…。

俺は頭で模索して戸惑いながらも、彼の兄と妹も一緒にどうだろうかと提案する。

彼女の味方を予め付けて置くのは、彼女を守る為にとても大切な事だ。

『君は妻をとても大切にしているようだ。私も彼女に興味が湧いてきたよ。各国からの貿易商も大勢招待されているから、君の会社にとっても重要な集まりになると思うよ。』

いつしか夫のルイス・ウィリアムズまで賛同して話に入って来ていたから、これは…断る事はもはや不可能だと俺は腹を括る。

『分かりました、是非参加させてください。
しかし、彼女はとても控えめな女性なので…あまり囃し立てないでやって頂きたい。』
莉子を守る為に予防線を何重にも張って置くことは怠らない。

『ふふふっ。よっぽど大切になさっているのね。日本人は女性を軽んじてるところがあるけど、貴方は別ね。』
夫人が楽しそうにそう言って話しはまとまる。

莉子の負担にならなければ良いが…。

急に決まった話しを彼女はどう思うだろうかと、いささか心配になる。

岸森公爵はこの土地ではかなりの有力者だと聞く。そしてウィリアムズ夫妻は最重要ポストだろう。その彼等からの推薦を無碍には出来ないだろうから、招待状は確実に届くだろう。

としたら、彼女のドレスを早く仕立てなければ…!

来月に間に合うだろうか?
誰にも見劣る事がない上等なドレスを…。

会食が終わるや否や、次の予定までの間を縫って直接自宅に足を運ぶ。
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