冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
莉子の一言でこんなにも心が晴れるとは…。

自分の単純さに笑えるが、彼女の心はここにあるんだと感じて、司は心底ホッとする。

「今夜は肉じゃがにしました。司さんがお好きだと思って。」
にこりと笑うこの笑顔にどれだけ救われているか…。

言葉足らずの司の事を、ちゃんと分かってくれる人がいる。それだけで、気持ちがこんなにも穏やかになっていく。

「あの…今度時間がある時に、ダンスの練習の…お相手をして頂けませんか?」

夕食の合間に、莉子は思い切ってそう聞いてみる。
少しでも司のステップに慣れておきたいと思うのだが…。

「俺が?俺もそこまで上手くない…。ダンスを踊ったのは数えるほどしか無いし…きっと莉子の方が既に上手くなってるはずだ。」
苦笑いしながら司がそう言う。

てい良く断られたようで、莉子は急にシュンとしてしまう。司は莉子にそんな顔をさせてしまった事に罪悪感を覚え、

「そうだな…俺も練習しないといけないな。…付き合ってくれるか?」

莉子はパァッと明るくなって、嬉しそうに微笑んでくる。

「嬉しい…ありがとうございます。」
司は微笑み返しながら、頭の中でワルツのステップを思い返す。

「後で…踊ってみるか?」

「はい!」

莉子はすっかり元気を取り戻して、パクパクと食事を口に運んでいる。

そんな莉子を微笑ましいと見守りながら、司はひたすら頭の中でステップを踏む。
< 186 / 222 >

この作品をシェア

pagetop