冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
そして、夕飯の片付けも終わり莉子もやっと一息付いたのを見計らい。

「一曲練習してみるか?」
と、司から手を差し出してダンスに誘う。

「はい、よろしくお願いします。」

司は玄関ホールに莉子を誘い、練習用に置かれた蓄音機に針を落とす。
するとワルツの心地良い音楽が流れ始める。

司と向かい合って組むと、莉子の心臓はドキドキと高鳴って身体が強張るほど緊張してくる。

司が小さく、
「1、2、3」
と掛け声をかけてくれて、それで何とか一歩を踏み出す事が出来た。

司はやはりとても上手で、莉子はステップを間違わないように着いていくのが精一杯だった。

高いヒールのせいで、いつもより近い司の顔にドギマギしてしまう。

初めは無表情だった司だが、段々と気持ちがほぐれて来たのか、後半は楽しそうに少しダンスにアレンジを加えてくるようになる。

莉子をクルクルと回したり、後ろに倒れそうになるほどのけぞらせたり…振り回されてステップも何も、訳が分からなくなってしまった莉子だけど、クルクルと回されているうちに、緊張も解けて楽しくなってくる。

いつしか笑顔が溢れ、遊園地の遊具に乗っているみたいな気分で、ダンスを楽しんだ。

最後は抱き上げられてクルクル回されて、まるで子供の頃、父がしてくれた高い高いのような格好に、思わず声をあげて笑ってしまう。

曲が終わってもしばらく抱き上げられたままクスクスと笑う。

「ふふふっ、まるで遊園地にあるメリーゴーランドみたいです。」
司に抱きついた状態で、笑いながら見つめ合う。

いつの間にか緊張だったり恥ずかしさだったりが、全て吹き飛んでしまっていた。

司もハハハッと声を出して笑ってくれるから、お互いそのままの状態で笑い合った。

「楽しかったか?
ダンスは基礎も大事だが、まず1番は楽しむ事が大切だ。」

こくんと莉子は頷き、司の逞しい腕の中不思議な安心感に包まれて、このままずっと抱きしめていて欲しいとさえ思ってしまう。

司は抱き上げた状態でツカツカと歩き出し、莉子をソファの上にそっと下ろしてくれた。

「楽しかったです。ダンスってこんなにも楽しいものなんですね。」
自分でも気持ちが高揚して声が弾むのが分かる。
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