冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
次の日、

昨日のダラダラと過ごした1日を戒めるかのように、司は無心で竹刀を振るう。根が真面目な男だから、やはりダラけた生活はなかなかに難しい。

そして、何よりも誰よりも大切にしたいと思っている莉子なのに…側に居ればどうしても触れたくなって、それだけでは我慢が出来なくなってしまう、そんな自分の邪な心を取り払う為、ただひたすらに竹刀を振っているのだ。

…初心の莉子を2晩続けて抱き潰すとは…

自分がこれほどまでに強欲だったのかと、自己嫌悪に苛まれる。

だけど司だって、初めて知った己の性に戸惑っているのは仕方が無い事なのだ。

跡継ぎになるべく育てられ、感情を表に出す事を許されなかったせいなのか、妙に大人びた子供だった。

大人になって社会に出ても、喜怒哀楽を出す事無く黙々と目の前にある課題をこなし、色恋沙汰に見向きもせず、仕事だけの毎日だった。

気付けば冷酷な人間だと、周囲の人々から怖がられる存在になっていた。それでも、周りの視線には特に気にも留めてこなかった。

そんな司が莉子にだけは、どう抗ったって自分を制御する事が出来ず、その度彼女を困らせてしまうのだ。

ほとばしる汗を拭く事もなく懸命に竹刀を振るっていると、階段を急いで降りて来る小さな足音に気付く。

急いで手を止め、踊り場まで一個飛ばしで駆け上がる。

「おはよう、ございます…
すいません、寝坊してしまいました。急いで朝ご飯の準備をします。」

頭を下げてしきりに謝る莉子に優しく、

「俺のせいだ、莉子は何も悪く無い…身体は大丈夫か?どこか痛い所はないか?」
と、いろいろと心配する。

今日の莉子は時間がなかったこともあり、簡単に着れるワンピースを着ている。

赤と白のチェックのワンピースの上に、白いレースのエプロンまでしているから、まるで土産屋に飾ってある西洋のドール人形のようだと司は思う。

可愛らしいことこの上ない。

出来ればガラスのケースに入れて飾って置きたいくらいだ。

誰の目にも触れさせたく無い。
そのくせ近くに居れば、触れたくなってしまう。
司は自分の鼓動が早くなるのを感じる。

朝からこのままではいけないと、平常心を取り戻す為あえて莉子との距離を取る。そして、今夜からしばらく別々の部屋で寝ようと提案する。

せめて晩餐会までは…

華奢な彼女にこれ以上無理をさせる訳にはいかないと、自分自身に誓いを立てる。

莉子は自分にとって、もはや媚薬のようだと思う。

彼女を目の前にすると心が動き、たちまち虜になってしまう。その全てに魅せられて、どうしようもなく欲してしまうのだ。

それなのに…

彼女はそんな俺を止めるでも無く、全て受け止めて優しく許してしまうから、これではいけないと自分自身でを律しなければと司は思う。
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