冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う

そこへ先程の執事が2人の男女を連れて戻って来る。

「お待たせして申し訳けありません。
私が岸森 聖一郎と申します。こちらは妻の雅代です。」
紹介されて、慌てて莉子は体裁を整え笑顔を作る。

「初めまして。お招きありがとうございます。
長谷川 司と申します。この度、長谷川商事の横浜支店長として赴任して来ました。どうぞよろしくお願い致します。こちらは妻の莉子と申します。」

つい先程まで初々しいやりとりをしていた夫婦とは思えないほど、ガラッと仕事の顔に戻った司は、堂々とした話し振りで、莉子も面食らうぐらいだった。

「初めまして、莉子と申します…。どうぞよろしくお願い致します。」
そう言って頭を下げるのがやっとだった。

「まぁ、美男美女ですこと。絵になるお二人ね。
まだ、こちらに来て数ヶ月なんでしょう?これからよろしくね。」

岸森伯爵夫人は緊張する莉子に優しく微笑みかけてくれる。

「莉子さんは、森山伯爵のお嬢さんだそうだね。彼には生前私もお世話になったんだ。何か困った事があったらいつでも相談に乗るよ。」

にこやかに笑う岸森公爵は気さくで、素敵なご夫婦だった。

少しの間ソファに座り、4人でありし日の父の話しで花が咲く。どこに行っても誰からでも好かれていた父の事を、亡くしても尚その偉大さを知る。

しばらくすると、ウィリアム夫妻も到着して楽しいお喋りに花が咲く。

「私、貴女に一度会って見たかったの。このツカサの心を射止めた女性なんて今までいなかったんだから。
本当よ。このルックスでモテない訳が無いのに、イギリスにいた時でさえ女の影が無かったのよ。」

ウィリアムズ夫妻はイギリス赴任の際に司に会い、そこから一緒に貿易ルートを立ち上げた大事な取引先だ。

「お二人には、駐在中いろいろとお世話になりました。私自身、右も左も分からない状態でしましたので、今でも力強い仲間だと勝手に思っております。」

司がどれほど彼らに信頼を寄せ、イギリスとの貿易には欠かせない存在なのかを、岸森公爵に伝えている。

英語を交え、時には通訳を買って出て、2人の間を取り持つ姿はとても素敵で、頼り甲斐のある。

これまで仕事姿の司をあまり見た事が無かった莉子だけど、これが自分の夫なのかと思うと誇らしく思うほどだった。

「ねぇ。男達は仕事の話しばかりで詰まらないから、先にパーティ会場に行きましょうか。今日は有名ホテルのシェフをお招きして、お料理にも力を入れたのよ。」
岸森婦人に誘われて、断る訳にも行かずウィリアムズ婦人と共に席を立つ。

司と離れる事に少しの不安を感じてしまう。

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