冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
少し時間を置いた事で、ホール内は落ち着きを取り戻し、ただ遠目から好奇な目を向けられるだけだった。

司は良かったとホッとして、莉子の為に、飲み物と軽食を頼む。

何人か仕事関係の知り合いが来た為、挨拶を交わす。

来る人来る人皆先程の、ダンスの話しをして来るのは司的には気に食わなかったが、ニコニコ微笑みを返して来る莉子に癒されて事なきを得る。

軽食を食べ終えて、莉子は少し化粧直しをと化粧室へと足を運ぶ。

もちろんホール内は1人で歩かせられないと、司が着いて来たが、流石に女性用の化粧室にまで着いて行くのは憚られ、少し離れた休憩室で待つ事にする。

莉子がちょっとでも離れただけで、何故これほど不安になるのだろうか。司は人知れずソワソワと莉子を待つ。

「司様、今日はお会い出来て嬉しかったです。ありがとうございました。」

背後から声をかけられ振り返る。
先程少しだけ話しをした令嬢がそこにいて、正直少し苛立つ。

と言うのも、妻帯者だと話して程よく断ろうとした所。気にしていないと言ってくるのだ。その、神経が司には分からない。

「妻を待っていますので。」
冷めた声であしらうのだが、相手は物ともせず立ち去ろうとしないのだ。それどころか、腕に手を置かれて甘えた声で擦り寄ってくる。

「先程のダンス、とても素敵でした。この後、私とも踊って頂けませんか?
それとも今度、どこかでお食事でもどうですか?良いお店を知っていますの。」

全く空気を読まないその態度にいささか怒りを感じながら、
「申し訳ないが、俺は妻以外の女性に興味はありませんので、遊ぶ相手が欲しいなら他を当たって下さい。」
絡まれた腕は寒気が走るほど不快に思い振り払い、その場を立ち去ろうとする。

「待って下さい。私、中等部の頃から密かに貴方をお慕い申し上げておりました。どうか一度だけでも良いので、会っていただけませんか?」

なぜそんなにも執着されているのか、司には会った覚えも記憶もない。しかもその女の薬指には結婚指輪が付いているのだ。

「人違いではないですか。しつこく付き纏うのは止めて頂きたい。」

男だったら力尽くで突っぱねるのだが、女子に下手な事は出来ないと下唇を噛み耐える。

しかし、こういう女が罷り間違って、莉子に攻撃する可能性もある。上手く対応しなくてはと、男女関係には疎い司も、持ち合わせていない知識をフル回転させる。

そのタイミングで、キャーと悲鳴が玄関先から聞こえて来て、周囲は突然の出来事に騒然となる。
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