冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
その後
次に目が覚めた時、莉子はまばゆい光の中にいた。
真っ白な世界に1人だけ…辺りは静かで物音ひとつ無く、シーンと静まり返っている。
ここはどこ?天国…?それとも…地獄?
ボーっとする頭のモヤはなかなか晴れない。
しばらくぼんやりとしていると、急に誰かの声を聞く…。
誰かが私を呼んでいる…。
「…子、…莉子、莉子!!」
なかなか焦点が合わなくて、目を細めて声のする方を凝らして見る。
「…司、さん…?」
ぼやけた視界の中に浮かび上がる人の顔…
ああ、見間違えるわけがない。
会いたくて、会いたくて…触れたかった人…。
おもむろに気だるい身体をなんとか動かし、彼の顔に手を伸ばす。
すると、力強く握り返された手のひらを彼の頬に押し当ててくる。
ああ、良かった…暖かい。
「ご無事だったのですね…良かった…。」
「ああ、俺は無駄に丈夫だから心配するな。
それより莉子はあれから3日意識不明で目を覚さなくて…。後少し遅かったら、俺は死ぬ覚悟を決めていた。」
「何を…ご冗談は止めてください。司さんには、長生きして貰わなくては…。」
「莉子を失ったら生きていけない、何度言わせる。
…だから、俺の為に生きてくれ。」
熱い頬に押し当てられた手が温かい何かに濡れるのを感じる。
…これは…司さんの涙…?
こんなに強くて逞しい強靭な体を持っていても、涙を流す事があるのかと、莉子はまだモヤのかかる頭でぼぉーっと考えていた。
「私も相当打たれ強いので…ちょっとやそっとじゃ死にません…」
莉子はふふふっと笑う。
次に思い出したのは逃げ惑う群衆の波…
「あの…亜子は?正利お兄様は⁉︎」
2人の兄妹の安否が心配になる。
「大丈夫だ。火が放たれる前に外に逃げれたらしい。
あそこにいた岸森公爵夫妻も、もちろんウィリアムズ夫妻もだ。」
「良かった…本当に…良かった。」
大粒の涙が勝手に流れ落ちる。
「あまり涙を流すな。ただでさえ身体中の水分が足りないんだ。」
司の心配症は変わらず健在らしい。
「まず、水を飲んだ方がいい。」
水差しを口元に差し出され、小さく口を開けて飲んでみるが、思った以上に難しくて上手に飲む事が出来ない。
すると司が何を思ったかその水を口に含み、口移しに莉子の口の中に流し込まれる。
ゴクンと飲み込んだ水は冷たくて美味しくて、身体中に染み渡る。
それを何度か繰り返していると、何となく2人もっと繋がりたいと求めてしまい、舌を絡めて深い口付けに変わっていく。
莉子は息が乱れ身体の奥がキュンとして、はしたないと思うのに、離れたくないと矛盾した気持ちが交差する。
「…すまない、やり過ぎた。」
そんな思いを断ち切ったのは司の方で…
莉子は離れてしまう唇を物足りな気につい見つめてしまう。
「そんな顔するな…。神聖な病院でするには場所を憚られる。こっちだって耐えてるんだ。」
そう言って司は医者を呼んで来ると、病室を出て行ってしまった。