冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
(莉子side)

次の日、やっと頭がハッキリとしてきて、朝から病院食のお粥を食べ始める。ただの味もないお粥がこんなに美味しく感じるなんて…。

生きてる事を実感する。
全ての当たり前な日常が、とても大切で大事な事に気付く。

午前中にお見舞いに来てくれた司さんを見て驚く。

昨日は気付かなかったのだが、身体のいたるところに包帯が巻かれている事に…。

「司さん⁉︎お怪我をされてるじゃないですか!」

両手は手のひらから手首まで包帯が巻かれ、胸板も、ぐるぐると包帯が巻かれている。それに頭…

両手はきっと、1階までカーテンを使って降りた為だと想像はつくが…。

着流しを着ていなければ気付かなかった胸板辺りの包帯が気になる。

「身体の包帯はどうしたのですか?」

「ああ、これは…
ちょうど2階から降りた時、1階の窓ガラスが爆風で割れて背中を切った。大した事ではないから大丈夫だ。」

なんとも無いような口ぶりで言う。

私は二酸化炭素中毒で、背負われて降りていく間に意識を失ったらしく、そこからの記憶が全くない。

その後も彼は傷を負いながら、私を抱き上げ爆風から身をていして庇ってくれていた。

足手まといだったはずなのに…最後まで見離さずに彼は諦めなかった。

その事を知り、涙がポロポロと流れ出す。

「莉子に泣かれる事が1番困る。俺の為だと思って笑ってくれ。」
オロオロとする彼にふわりと抱きしめられて、しばらく泣き止む事が出来ずにいた。

おまけに、体力が無さ過ぎて泣き疲れて寝てしまったらしく、目が覚めた時には彼の姿は無く、また涙する。

誰かにこんなにも会いたくて、ずっと側にいて欲しいと思った事は今までなかった。

夕方、また顔を出してくれた司さんは背広姿で、ちゃんと仕事をこなしている事を知る。

「そんなに傷を負っているのに…もう、働いているのですか?」

信じられない…
両手だって包帯がぐるぐるで、荷物を持つのも大変そうなのに、それだけで泣きそうな気持ちになってしまう。

「私が…重いから…司さんの手に負担が…」

「莉子が重かったら何も持てない。君のせいじゃない。もう気にしないでくれ。」

私よりも辛そうな顔をしてくるから、これ以上は自分を責められなくなってしまう。

司さんが買って来てくれた、手土産のどら焼きを2人で食べながら話しをする。

「この火事で逆に仕事が忙しくなったんだ。
森岸公爵が既に洋館を建て直す為動き始めている。その手伝いを買って出たんだが、イギリスへ買い付けに行く事になりそうだ。」

立派な洋館はほぼ全焼で、なんとか大事な物だけは持ち出せたと聞く。

「それは、大変なお仕事ですね…。
ちゃんと休息を取れていますか?ご飯は3食ちゃんと食べれてますか?」

忙し過ぎる司さんの身体が心配になる。

「早く莉子が帰っで来てくれないと野垂れ死にするかもしれないな。」
笑いながら怖い事を言うから余計心配になってしまう。

「亜子ちゃんは、お食事を作りに行ってないのですか?」

お昼過ぎに妹が着替えを届けに来てくれたから、てっきり女中のお仕事は続けてくれていると思っていた。

「ああ、朝食と夕飯は作ってくれているから心配しなくていい。ただ、なるべく莉子の方に付いてて欲しいとお願いしてある。」

少しホッとして、そしてふと寂しくなる。

彼がイギリスに買い付けに言ってしまえば、しばらく会えなくなるだろう。イギリスまでの船旅はとても日数がかかるはず…それは…何週間…帰って来るのは何ヶ月?

不意にぎゅっと手を握られて、ハッとして目を合わせる。
「どうした?泣きそうな顔をしている。何を考えている?」

こんな事を聞いては彼を困らせるだけだと思うけど…
包帯で巻かれた手をそっと労わるように握り返す。

「あの…イギリスへは、いつ出発されるのですか?」
恐る恐る聞くのに、司さんはにこりと優しく微笑みを浮かべる。

「莉子が元気になって退院したら出発する。」

「どのくらい…かかるのですか?」

「そうだな…2カ月くらいはかかるだろうか。
なんせ買い付け内容は、室内の装飾品からステンドガラスまで多岐に渡る。それにイギリスまでは時間がかかる。」

「…2カ月…寂しくなりますね…。」

「はっ?俺は莉子を連れて行くつもりで話しているぞ。」

「えっ⁉︎」
落ち込んでいた気持ちが一気に浮上する。
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