冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
今日のおかしな1日を思い返していたら、突然司様が足を止める。

私はぶつかりそうになりながら、ギリギリのところで止まる。

「…何か、怒っているのか?」 

先程からの私の態度を不服に思ったのか、振り返りながらそう聞いて来る。

「いえ、とんでもありません…。」
驚き彼を見上げて、首を横に振る。

怒るなんて滅相もない。
使用人が主人に対して、してはいけない行為であり、そんな態度を取ったなら即首に違いない。

何秒か…彼は私の顔を覗き込み、

「気に障ることを言ったのなら申し訳なかった。」
と、頭を軽く下げてくる。

「いいえ…。何も…私の方こそ態度が良くなかったのなら…申し訳ございませんでした。」
と、深く頭を下げる。

「そう、簡単に頭を下げないで…
こちらは何が嫌で何が駄目だったのか教えて欲しいだけなのです。」
そう敬語で言ってくる。

何かが違う…。

私は使用人同等の人間なのに。

彼から見たら怪我を負わせてしまった負目があるのかもしれないが…それでもさっきまでは敬語では無かった筈…。

そう思うと言わずにはいられなくなって、

「あの…出来れば…敬語をお辞め頂きたいのですが…。
お手伝いされる方が気を使われてるのでは、お手伝いする身にとって、それ程やり辛い事はないと思われます。」
顔色を伺いながらそう伝える。

「貴方を女中だとは一度も思っていないのだが…。
分かった。壁を作られても困るから敬語は止めよう。
…しかし、俺は元から無愛想だから…普通にしていても別に怒っている訳では無い。そこは誤解しないで欲しい。」

それを気にしての敬語だったのだろうか…。
 
「はい…了承致しました。」
と、私は当たり障りなく返事をする。

「それ、その返事も堅すぎないか?
先程、俺は君に結婚を申し込んだ筈だ。
そういう相手に対してもう少し、砕けた言い方があるんじゃないか?」

…⁉︎
何を求められているのだろう?

私は首を傾げ数秒考える。

「はい…分かりました。」
何で返事をするべきか迷った挙句そう返すと、

「うん…まぁ、さっきよりは悪くない。」
と、言って司様はまた歩き出す。

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