冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「夕飯は食べれるか?」

「はい…大丈夫です。もう皆さんお集まりですか?」

「ああ、今、少し君の事を説明してきたから、心配しなくていい。ゆっくり行こう。」

司様は食堂までの長い廊下を、私の手を引いて歩いてくれた。
本気で婚約者として紹介するつもりなのだろうか?食堂に近付くに連れて不安が押し寄せてくる。

「…あの、本気で私と婚約を?」
足を止めて彼を見上げる。

「そのつもりだ。俺はそれが一番、君を東雲家から解放するのに最善の方法だと思う。」
自信満々でこちらを見てくるから困ってしまう。

「でも…ついさっき思いついたのですよね?
…本当に後悔なさいませんか?
私みたいな厄介者は…貴方のお荷物になるだけだと思うのです。」

「それはむしろ君に聞きたい。
俺は君がうちに来てからずっと考えていた。東雲家から君を救い出す方法を…。
後悔はさせない。引き受けたからには最善を尽くす。」

真っ直ぐな目で、揺るぎない決意を語る彼を見て気持ちが騒つく。これは言わば政略結婚だから、好き嫌いは関係無いのかもしれない…。

私の気持ちも…この人の気持ちも…きっと関係無い、形ばかりなの契約なのだから。

「…分かりました。
どうぞ…よろしくお願いします。」
私はやっとこの時、現実なんだと、夢では無いんだと実感した。

一度捨てたこの人生、流されるまま生きるしかないのだから。
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