冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
「兄さん、俺のことも紹介してよ。」
司にそう言うその男は、司とはまた雰囲気の違う美男子で莉子はドギマギしてしまう。
「弟の学(まなぶ)だ。」
司はそれだけ言ってやたらと嫌そうな顔をしている。
「長谷川学です。今年、大学4年生で法律を専攻しています。よろしくね、莉子ちゃん。」
「初めまして…よろしくお願い致します。」
莉子は差し出された手を見つめ、戸惑いながら立ち上がって手を握ろうとする、と
「莉子さん、学兄様には触れちゃダメよ。穢れちゃうから。」
麻里子が莉子を止め椅子に座らせる。
莉子はなぜ?と不思議に思いながら、司を見ると司も同意見のようで首を縦に振っていた。
「酷いな。2人して、俺は兄貴の婚約者様と仲良くなりたいだけなのに。」
学は怪訝な顔をして席に着く。
「お前は日頃の行いが悪いからだ。いつまでも遊び呆けてないで、そろそろちゃんとするべきじゃないのか。」
父も呆れた顔を向けている。
「学兄様は司兄様と違って遊び人なの。
いい顔して女を誑かす悪い男だから気を付けて。」
隣から麻里子がこそっと莉子に告げる。
そのタイミングで、待っていたかのように温かな夕飯が運び込まれる。懐石料理のように豪華で品数が多い事に、莉子は1人、目を丸くして驚いていた。
「莉子ちゃん可愛いね。」
肩肘を付いて莉子の事を見ていた学が、すかさずそう言ってくる。
可愛いなんて言われ慣れていない莉子は、目を瞬いて固まってしまう。
バシッと、隣に座っている司が学の肩を軽くはたき、冷めた目で睨みつける。
「ッイテッ!」
はたかれた学もワザと大袈裟に痛がって見せる。
それを麻里子がざまぁみろと言う顔をして、ふふふと笑う。
兄弟仲は悪く無さそうで、良かったと莉子は胸を撫で下ろした。
父が「いただきます。」
と、手を合わせて食べ始めるので、兄妹達も揃って手を合わせ食べ始める。
莉子はその様子を見てからそっと
「いただきます。」
と、料理係らしき白の割烹着姿の女中に手を合わせ、頭を下げてから箸を持つ。
どれから箸をつけて良いか迷うくらいの品数に戸惑ってしまう。それによく見ると、兄妹それぞれに若干違う品がある事に気付く。
莉子のお膳を見ると、柔らかく、胃に優しい配慮されていた。白米までも莉子だけお粥だったから、細かい心遣いに感動する。
向かいの司のお膳を見れば、魚の煮付けや煮物など和食が乗っていた。魚の煮付けを箸で器用に食べる司をしばらく見つめる。
隣の麻里子と弟の学はステーキにコーンスープと言ったような、洋食の献立だった。
「どうしたの、莉子さん?食べないの?」
箸もつけずにキョロキョロしていた莉子を心配して、麻里子が聞いてくる。
「いえ…皆さんお献立がそれぞれ違うのに驚いてしまいました。」
莉子がこそりと麻里子に伝える。