冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う
はぁーとため息を付いて両手で顔を覆う。

そのタイミングで、襖の向こうから声をかけられる。

「莉子、ちょっといいか?」
その声は良く通る低い声で、莉子は無意識にピシッと姿勢を正す。

「はい…。」
返事をして立ち上がり入口に向かおうとするが…まだガーゼを貼っていなかった事に気付き、どうしましょうとあたふたする。

近くにあった手縫いで傷を慌てて隠し、声の主の方に恐る恐る向かう。

ひと呼吸フーって息を深く吐いて、襖をそっと開けると、そこには案の定、司がいた。

「…すいません、お待たせしてしました。傷の手当をしようとしていたところで…」

莉子が開けた襖はわずかで…。
それだけで司は怖がられているんだと自覚して、気持ちが落ち込む。

「…手紙を書く便箋を何種類か持って来たんだ。自分で選びたいだろうと思って…。
…少し部屋に入れてくれないか?」
それでも、お互いの距離を縮める努力は惜しまない。

莉子も、こんな寒い日に廊下に立たせる訳には行かないと思い直す。

それに…間借りしているのは私の方だ…

顔の傷を見られたく無いけど、部屋に上げない訳には行かないと、一瞬躊躇った後そっと襖を開け、どうぞと部屋に通す。

「ありがとう。」

一瞬部屋に入れてもらえないのかと思った司も、ホッとした顔で部屋に足を踏み入れる。

そこで、鏡台に置いてある薬箱が目に入り、
「俺が手当をしてやるからそこに座って。」

持っていた箱を一旦置き、莉子を鏡台の前に座らせる。

「あの…後から自分でやりますから…。」
傷を見られるのが嫌で、莉子は俯きながらそう言うのに、

「大丈夫だ。心配しなくても、君が寝ていた間何度も薬を塗ってガーゼを取り替えている。痛くないように気を付ける。」

傷を見られたくないと言う乙女心に気付かない司は、それでも手当をすると言って聞かない。

莉子はそれでも手縫いで隠した頬をなかなか曝け出す事が出来ない。

「莉子…。」
司は少し強引に、莉子の手を取り下ろさせる。

しばらくじっと傷口を見つめた後、
「良かった…少し色が引いてきた。」

司はホッと安堵した。
そして軟膏を指に取り頬の赤みにそっと優しく塗っていく。

莉子は羞恥心にかられて、ぎゅっと目を瞑り俯いたままだ。

「…痛いのか?」
そんな莉子を気遣い司は指を止める。

いいえと莉子は首を微かに横に振る。

それならと司は再度指を動かし始めるのだが、莉子が身を小さくして俯いているから、塗りずらさを覚える。

「顔を少し上げてくれないか?」
司は先程よりも近付いて、方膝を立てて莉子の側に寄り熱心に丁寧に軟膏を塗っていく。

「傷の表面を乾かさない方が良いそうだ。少しベタつくかもしれないが、しばらく我慢してくれ。」

耳元近くでそう話されて、莉子は緊張で手をぎゅっと握り締めて固まる。

いつまでも俯いている莉子の顎に指を当て、少し強引に上げさせて軟膏を塗る。

「そんなに怖がらなくても…もう二度と君を傷付ける事はしないから。」

司は司でビクビクと怖がられる事に少なからずショックを受けているのだ。

「…怖いのではなく…恥ずかしいのです。」
莉子が意を決したように小さな声で、それでもハッキリと言う。
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